小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない鬼(1)

 

 

「村長、お客様です」

 

村人の一人が、

趣味の畑仕事をしているEを呼びに来ました。

 

この日は休日で、Eの学校の仕事は休みです。

 

麦わら帽子を取り、Eがカフェバーに入ると、

Eより少し年配の男性がテーブル席から立ち上がり、

とても美しい仕草で90度に近い角度で体を曲げ、

最敬礼で頭を下げました。

 

カフェバーの天窓から淡い光が入り込み、

頭を下げた男性の横の床に四角い光を作っています。

 

Eはその男性に近づき、会釈をしました。

「こんにちは。どちらさまでしょうか」

 

男性はおそるおそる顔を上げて、Eを見ました。

「Eさん、私を覚えていらっしゃいますか?」

 

Eは男性を見て、しばらく考え、

「どこかでお会いした気がしますが・・・。

 申し訳ございません。ちょっと失念しております」

と言い、「どうぞお座りください」と促しました。

 

お客の男性は、席に戻りました。

 

既に注文済みで、

テーブルにコーヒーカップが1つ置かれています。

 

Eはその人に対面して座りました。

 

日中のカフェバーの店員は、

村人がもちまわりで担当しています。

 

この日はパン屋のおかみさんで、

Eは彼女に自分のコーヒーを頼みました。

 

男性は、緊張した面持ちでEに言います。

 

「一度しかお会いしていないので、

 忘れられても仕方のないことです。

 でも、私はあなたのことをとても覚えているんです」

 

「そうですか」

 

「私は戦争中この村に来て、あなたの顔を傷つけた者です」

 

「・・・ああ、あの時の。あなたでしたか」

 

百輪村のあるコチダ国と隣のアチダ国での戦争は

1年半にわたって続き、そして1年前に終わりました。

 

その戦争中に、百輪村に来た軍人のひとりが、

兵を差し出さない村長Eに対して激怒し、

非国民だとののしり、横面をたたきました。

 

その軍人が、目の前の男性なのです。

 

「はい。その節は、・・・

 大変申し訳ございませんでしたっ」

 

男性は座ったまま、

テーブルにギリギリ、額がつきそうなほど、

Eに向かって頭を下げました。

 

Eは、姿勢を正したままで、静かに言います。

 

「もういいですよ。そのお気持ちだけで。

 大したケガではありませんでしたし、

 あなたもお仕事だったのでしょうから。

 どうぞ頭をお上げください」

 

男性客は、ゆっくりと姿勢を戻しました。

 

 

(続く)