登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
E(村長&小学校教諭) 栄一 エデン
では、どうぞ。↓
見えない鬼(1)
「村長、お客様です」
村人の一人が、
趣味の畑仕事をしているEを呼びに来ました。
この日は休日で、Eの学校の仕事は休みです。
麦わら帽子を取り、Eがカフェバーに入ると、
Eより少し年配の男性がテーブル席から立ち上がり、
とても美しい仕草で90度に近い角度で体を曲げ、
最敬礼で頭を下げました。
カフェバーの天窓から淡い光が入り込み、
頭を下げた男性の横の床に四角い光を作っています。
Eはその男性に近づき、会釈をしました。
「こんにちは。どちらさまでしょうか」
男性はおそるおそる顔を上げて、Eを見ました。
「Eさん、私を覚えていらっしゃいますか?」
Eは男性を見て、しばらく考え、
「どこかでお会いした気がしますが・・・。
申し訳ございません。ちょっと失念しております」
と言い、「どうぞお座りください」と促しました。
お客の男性は、席に戻りました。
既に注文済みで、
テーブルにコーヒーカップが1つ置かれています。
Eはその人に対面して座りました。
日中のカフェバーの店員は、
村人がもちまわりで担当しています。
この日はパン屋のおかみさんで、
Eは彼女に自分のコーヒーを頼みました。
男性は、緊張した面持ちでEに言います。
「一度しかお会いしていないので、
忘れられても仕方のないことです。
でも、私はあなたのことをとても覚えているんです」
「そうですか」
「私は戦争中この村に来て、あなたの顔を傷つけた者です」
「・・・ああ、あの時の。あなたでしたか」
百輪村のあるコチダ国と隣のアチダ国での戦争は
1年半にわたって続き、そして1年前に終わりました。
その戦争中に、百輪村に来た軍人のひとりが、
兵を差し出さない村長Eに対して激怒し、
非国民だとののしり、横面をたたきました。
その軍人が、目の前の男性なのです。
「はい。その節は、・・・
大変申し訳ございませんでしたっ」
男性は座ったまま、
テーブルにギリギリ、額がつきそうなほど、
Eに向かって頭を下げました。
Eは、姿勢を正したままで、静かに言います。
「もういいですよ。そのお気持ちだけで。
大したケガではありませんでしたし、
あなたもお仕事だったのでしょうから。
どうぞ頭をお上げください」
男性客は、ゆっくりと姿勢を戻しました。
(続く)