登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
【草切村】J(キックボクサー) 純 ジャック
【百輪村】E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンD(大工) 大吾 デイビッド
では、どうぞ。↓
見えない英雄(4)
司令部に戻ったJ。
髪はぐちゃぐちゃに乱れ、
血と泥と吐しゃ物にまみれて
カピカピに固くなった軍服姿でした。
作戦会議中の上層部の部屋に入ったため、
全員ギョッとしてJを見ましたが、すぐに声をかけます。
「J伍長、報告を」
「・・・。オレ以外、みんな、死にました・・・」
消え入りそうな声でJは胸ポケットから
10枚のドッグタグを出し、
入り口のそばにある小さなテーブルにそっと置きました。
「そうかね。では、次の兵を用意する」
「・・・んだとぉーー、この野郎ぉーー!!」
Jは突然大声を出すと、会議室の備品を壊し始めました。
キャビネットを次々と横倒しにし、貼られた地図を割き、
座っていた上官を椅子ごとひっくり返しました。
そして会議室にいた者を無言で一人ずつ殴り倒します。
「や、やめんか」「やめろ」「ひい」「だれか」
Jの姿は、まるで神殿を壊すサムソンのようでした。
その場にいた全員がJの拳や足の攻撃によって倒れます。
最後の一人になった時、Jは胸ぐらをつかんで言いました。
「今すぐアチダ国に電話しろ。オレの対戦者を出せと言え。
そいつと試合をしてやる。それで戦争を手打ちにしろ」
「な、何を無茶なことを・・・」
「無茶なことをしてるのは、お前らだろうが!!!」
血走った目のJが拳を振り上げて、殴る態勢を取ります。
「わかった、わかったから落ち着け。試合だな?
電話番号を調べさせるから、座ってくれ」
Jは荒い鼻息をふーっと出して、手を放しました。
上官は廊下に飛び出し、「誰か!」と人を呼びました。
Jは、小テーブルに置かれたドッグタグを再び手に取り、
大事そうに胸ポケットにしまいます。
「あの、良かったらお茶をどうぞ」
兵士がおそるおそる、
紅茶をトレイに載せて持って来たので、
Jは気持ちを落ち着かせようと受け取り、
ティーカップのぬるいお茶をグッと飲みました。
ところが、それは睡眠剤入りでした。
Jが目を覚ますと、そこは独房でした。
現れた軍人たちが
「J伍長、君は軍法会議に・・・」
と途中まで言いかけたものの、
スキマから見えるJの射るような目に沈黙しました。
Jは猛然と鉄格子につかみかかり、
ガタガタと揺らしながら、
あらん限りの声で叫びました。
「アチダに連絡したか?!早く電話しろ!!
オレを試合に出せ!勝ってやる!終わらせてやる!!」
軍部の人たちはJの殺人虎のような勢いにおそれをなし、
食事の配給時以外はJの独房には近づきませんでした。
Jは時々吠えたり鉄格子を揺らしたりをしながらも、
荒々しく配給飯を食べ、筋トレをし続けました。
試合が来たら、すぐに戦えるように。
投獄されて半年後、鍛えた筋肉の出番がないまま、
Jは独房の中で終戦を知りました。
(続く)