登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
【草切村】J(キックボクサー) 純 ジャック
【百輪村】E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンD(大工) 大吾 デイビッド
では、どうぞ。↓
見えない英雄(3)
元々身体能力が高かった為、研修はすぐに終わりました。
Jが手こずったのは、銃の分解・組み立てと
ゲートルの巻き方を習得するときだけでした。
10人の若い兵士をあてがってもらったJは、
いきなり小集団のトップとなり、前線に送られました。
作戦本部からどう動くかを指示されたものの、
Jは、時々命令違反をし、安全ルートに逃げ込みました。
自分のそばにいる年下の若い兵士たちを
危険な目に遭わせたくなかったからです。
戦争が終わるまで、この10人を自分が守る。
Jはひそかに、それを目標にしていました。
そうして、なんの戦績もないまま、全員無事で戻るため、
Jはしょっちゅう叱られましたが、どこ吹く風でした。
そんな不遜な態度に目をつけられたのか、Jの小部隊は、
どんどん危険な最前線に置かれるようになりました。
すぐそばで弾が地面に当たるような危険地帯でも、
Jは持ち前の野性的な勘で安全な場所に移動しました。
Jは若い部下たち全員にとても慕われており、
目的地へ歩く時も、森の中で輪になって眠る時も、
みんなでクイズを出し合ったり、
冗談や下ネタ話でくすくす笑いました。
ある時、最前線の塹壕に身を潜めていると、
手りゅう弾が上からいくつか降ってきて、
Jを含めたみんなは慌てました。
「すぐつかめ、外へ出せ!」
Jは指示を出しながら、一番数多く外へ放りました。
しかし、最後の一つが間に合わず
ジジジと音を立てたとき、
Jは死を覚悟しました。
気絶から意識を取り戻し目を開けたとき、Jは
若い兵士たちの下敷きになっていて、無傷でした。
そばにいた10人はJを守って、犠牲になりました。
彼らの名前を呼びましたが、誰も返事をしません。
「・・・逆だろ・・・?」
Jは一晩、彼らのそばにじっと座っていました。
朝日が昇るころ、
Jは手近なヘルメットをシャベル代わりにして、
一心不乱で墓穴を掘り始めました。
もう自分が撃たれようがどうでもよくなって、
立ち上がって黙々と穴を掘ります。
アチダ国の敵兵が数人、Jを撃とうと銃を構えますが、
それが有名なプロボクサーのJであることに気づき、
気まずそうに銃をおろしました。
そしてJのやることを見ていました。
夕方になり、Jは部下全員を、掘った穴にそっと納め、
ドッグタグを回収し、
ゆっくりと土をかぶせていきました。
それが終わると、敵兵の方に向かって万歳しました。
ところが誰もJを撃たないので、Jはヘルメットを捨て、
踵を返し、森の奥に入っていきました。
(続く)