小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
【草切村】
J(キックボクサー)    純  ジャック

【百輪村】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
D(大工)        大吾  デイビッド

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない英雄(2)

 

 

Jが連れていかれたのは、広い講堂でした。

 

司会の軍人の後から壇上に姿を見せた軍服のJを見て、

整然と並ぶ若い兵士たちは

「Jだ」「本物だ」「うわあ」「感激」などと

小声で嬉しそうな声を上げました。

 

「静かに!」と上官の声が上がり、場がしんとします。

 

「出兵する諸君のために、J士官よりお言葉がある。

 心して聞くように!」

と、司会者が壇上で声を張り上げました。

 

「やっほー。Jだよ~。元気~?」

 

第一声から場違いな声を出して手を振ったため、

Jは一旦、舞台のそでに連れていかれました。

 

「Jさん、彼らは前線に行くんです。

 真面目にやってください」

 

「・・・は、はい」

 

Jは再び、舞台の中央に戻り、咳ばらいをしました。

 

「失礼しました。

 みなさんにお伝えしたいことがあります。

 戦いの心得を教えたいと思います。

 いきなり行動してはダメです。

 まずは相手をしっかり見てください。

 そして、ただ前に進むだけじゃなく、

 後ろに下がることも作戦のうちです。

 絶対に勝つ、という気持ちを忘れないでください・・・」

 

Jは、自分の試合のやり方をしゃべりました。

上官も兵士たちも、強く頷いて聞きほれました。

 

最後に会場を出て行く一人一人に、Jは握手をしました。

 

「ファンです」「お言葉ありがとうございました」

「最後に会えて良かったです」「思い出が出来ました」

などと出兵する若者たちが言うので、Jは

「ありがと。また会おうね。絶対だよ」と声掛けしました。

 

Jの熱弁に気を良くした軍部は、

Jのために兵舎に居心地の良い特別室を用意し、

そこで寝起きしてもらう手筈を整えました。

 

Jはそこで上げ膳据え膳の生活をし、要請があれば、

また壇上で同じようなことを繰り返し述べました。

 

 

そんなある日、若い兵の一人が

Jの住む特別室に食事を持ってきました。

 

腹筋をしていたJは「ありがとう」と言って、

立ち上がろうとしたとき、その食事係が

トレイをガチャンと音を立ててテーブルに置きました。

 

「Jさん、あなた、何とも思わないんですか」

 

「え、何?」

 

「あなたが初めて演説をしたときの兵士たち、

 半数は、もうこの世にはいないんですよ」

 

Jはぎょっとして凍りつきました。彼はなおも言います。

 

「そのなかに、私の弟もいました。先日、死にました」

 

「え・・・うそだろ・・・」

 

「・・・すみません。あなたのせいじゃないのに。

 ・・・失礼します」

 

食事係は出て行きました。

 

 

その後、司令部のドアをノックしたJは、言いました。

「オレを前線に送ってくれ」と。

 

 

 

(続く)