登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
【草切村】J(キックボクサー) 純 ジャック
【百輪村】E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンD(大工) 大吾 デイビッド
では、どうぞ。↓
見えない英雄(2)
Jが連れていかれたのは、広い講堂でした。
司会の軍人の後から壇上に姿を見せた軍服のJを見て、
整然と並ぶ若い兵士たちは
「Jだ」「本物だ」「うわあ」「感激」などと
小声で嬉しそうな声を上げました。
「静かに!」と上官の声が上がり、場がしんとします。
「出兵する諸君のために、J士官よりお言葉がある。
心して聞くように!」
と、司会者が壇上で声を張り上げました。
「やっほー。Jだよ~。元気~?」
第一声から場違いな声を出して手を振ったため、
Jは一旦、舞台のそでに連れていかれました。
「Jさん、彼らは前線に行くんです。
真面目にやってください」
「・・・は、はい」
Jは再び、舞台の中央に戻り、咳ばらいをしました。
「失礼しました。
みなさんにお伝えしたいことがあります。
戦いの心得を教えたいと思います。
いきなり行動してはダメです。
まずは相手をしっかり見てください。
そして、ただ前に進むだけじゃなく、
後ろに下がることも作戦のうちです。
絶対に勝つ、という気持ちを忘れないでください・・・」
Jは、自分の試合のやり方をしゃべりました。
上官も兵士たちも、強く頷いて聞きほれました。
最後に会場を出て行く一人一人に、Jは握手をしました。
「ファンです」「お言葉ありがとうございました」
「最後に会えて良かったです」「思い出が出来ました」
などと出兵する若者たちが言うので、Jは
「ありがと。また会おうね。絶対だよ」と声掛けしました。
Jの熱弁に気を良くした軍部は、
Jのために兵舎に居心地の良い特別室を用意し、
そこで寝起きしてもらう手筈を整えました。
Jはそこで上げ膳据え膳の生活をし、要請があれば、
また壇上で同じようなことを繰り返し述べました。
そんなある日、若い兵の一人が
Jの住む特別室に食事を持ってきました。
腹筋をしていたJは「ありがとう」と言って、
立ち上がろうとしたとき、その食事係が
トレイをガチャンと音を立ててテーブルに置きました。
「Jさん、あなた、何とも思わないんですか」
「え、何?」
「あなたが初めて演説をしたときの兵士たち、
半数は、もうこの世にはいないんですよ」
Jはぎょっとして凍りつきました。彼はなおも言います。
「そのなかに、私の弟もいました。先日、死にました」
「え・・・うそだろ・・・」
「・・・すみません。あなたのせいじゃないのに。
・・・失礼します」
食事係は出て行きました。
その後、司令部のドアをノックしたJは、言いました。
「オレを前線に送ってくれ」と。
(続く)