小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
【草切村】
J(キックボクサー)    純  ジャック

【百輪村】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
D(大工)        大吾  デイビッド

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない英雄(1)

 

 

このお話は、マブダチJの戦争の体験談を聞いて、

流れに沿ってEが書き起こしたものです。

 

 

 

コチダ国とアチダ国が戦争を始めた途端、

双方の国は慌ただしく兵を集め始めました。

 

既存の兵だけでなく、一般人からも募集をかけます。

未経験者には基礎教育の研修期間があり、

熟練の軍人から戦い方を教わるのでした。

 

草切村のJは、プロの現役キックボクサーとして

コチダ国では英雄と呼ばれるほどの名士でした。

 

コチダの軍隊から「ぜひ士官として参加して欲しい」と

何度もオファーが届きましたが、面倒くさがったJは

ギリギリまで駄々をこねていました。

 

「オレはリングで戦うのは得意だけど、

 戦争はド素人なんだってば」と。

 

「どうか気楽な気持ちで来てほしい」と言われ、

しぶしぶ様子見で軍部に向かうと、

迎えてくれた司令部の係の人から

新品の軍服と帽子を渡されました。


別室で着替えたJは全身鏡の前でうっとりします。

 

「うわ、やばい。オレ、超かっちょ良くね?

 キャプテン・○ーロックみたいじゃね?」

 

「Jさん、大変申し訳ございませんが、

 頭髪を短くカットさせていただきたいのですが」

 

バリカンを持った軍人が言うので、

肩まで伸びる長髪のJは驚きました。

 

「はい?オレはね、髪が長い方が力が出るんだよ。

 サムソンとデリラの話、知ってる?

 あれと一緒だからね」

 

軍人は苦笑したあと、じりじりとJに近づきます。

 

「映画の見過ぎかゲン担ぎかは不明ですが、

 何しろこちらの規則なので・・・」

 

「嫌だよ。勝手に決めないでくれる?」

 

屈強な軍人が3人で押さえつけようとしましたが、

Jは野生動物のように巧みにジャンプし、逃げ回ります。

 

1時間後、ついに彼らは根負けしました。

 

「わかりました。では結んで帽子の中に入れて下さい」

 

「最初から、そう言ってよ。まったくもう。

 っていうか、今日はただ様子を見に来ただけなのに」

 

Jは、長い前髪と後ろ髪をそれぞれゴムで縛り、

軍帽子の中に入れました。

 

場が収まったところで、軍人がJに言います。

 

「あなたは、この国の英雄なんです。

 ぜひとも兵士たちに励ましのお言葉をお願いします」

 

「え、ファンサ?OK、OK」

 

どこまでものんきなJ。一日警察署長の気分です。

 

 

 

(続く)