登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンD(大工) 大吾 デイビッドS(ラーメン屋) 進 スタンF(Dの弟子・大工) 文也 フランクG(Dの弟子・大工) 弦 ジョージO(Sの妻・スタイリスト) 織江 オリーブT(八百屋・車椅子使用) 拓郎 テッド
では、どうぞ。↓
見えない勇気(4)
村長Eは大工Dに視線を向け、
二人で静かに頷きあいました。
「E、あそこを使うんだな」
「ええ。あなたに頼んでおいて正解でした」
「まさか本当に出番がくるとはな。
・・・用心深いにもほどがあるぞ」
「備えというのは、使わないのが一番なんですけどね」
ぽかんとしている村人たちに、Eは言いました。
「皆さん、こんなこともあろうかと、
この山のさらに奥に、もう一つ、
村の全員が身を寄せられる場所を作っておきました。
鉄道敷設で立退きの件が出たとき、
Dにお願いして建ててもらったのです。
この土地を一旦離れませんか?
戦が終わるまで、影のように、静かに暮らすんです。
ただ、ここに比べて本当に何もない土地ですので、
慣れるまでは大変な生活になるでしょう。
もちろん、行くかどうかは自由です」
車椅子に座っている八百屋のTが笑って言いました。
「そりゃあ簡単だ。
オレたちは、元々何もないところから始めてるし、
気配を消して暮らすのは得意だからな」
その言葉で昔を思い出した村の皆はふふっと笑い、
張り詰めた空気が少しだけ緩みました。
こうして百輪村の人たちは、
すぐさま移住の用意を始めました。
愛する村を離れるのは悲しいと泣く人もいましたが、
「村は土地じゃない。人間が作るものだ」
と誰かが言い、それで全員の気持ちが一つになりました。
村全体が、夜の間に静かに移動しました。
隣の草切村さえ気づかないほどのしじまの中で。
誰一人欠けず、荷車に乗って山道を進んでいきました。
数日後、コチダ国でもアチダ国でも奇妙な噂が広がります。
「百輪村が消えたらしい」
「全員、突然いなくなった」
「爆撃に合ったようだが、遺体もなにもない」
軍司令部は混乱しました。
「消えた? 全員が? どうやって?」
誰も答えられませんでした。
1年と数か月後、コチダ国とアチダ国の戦争は、
始まった時と同じように、唐突に終結しました。
双方とも大きな損失だけを残し、疲弊したあとに、
ようやく和平を結びました。
にこやかに笑っているのは、軍需産業だけでした。
戦争が完全に終わった頃。
百輪村の住民たちは、何食わぬ顔で元の土地に戻りました。
壊れた家があれば、Dと大工仲間が修復しました。
畑も復興しました。
子どもの笑い声も戻りました。
誰一人として欠けることなく——
百輪村は、また静かに生活を再開したのです。
村の掲示板には、Eが書いた短い言葉が貼られています。
「平和とは、戦わない勇気を選ぶ力である」と。
それを見るたびに、百輪村のみんなは胸が熱くなり、
ending music
Song from a Secret Garden - Secret Garden
(このお話はフィクションです。
実在の物事とはまったく関係がありません)