小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
D(大工)        大吾  デイビッド
S(ラーメン屋)      進  スタン
 
F(Dの弟子・大工)   文也  フランク
G(Dの弟子・大工)    弦   ジョージ
O(Sの妻・スタイリスト) 織江  オリーブ
T(八百屋・車椅子使用)  拓郎  テッド  

 

では、どうぞ。↓

 

見えない勇気(4)

 

 

村長Eは大工Dに視線を向け、

二人で静かに頷きあいました。

 

「E、あそこを使うんだな」

「ええ。あなたに頼んでおいて正解でした」

「まさか本当に出番がくるとはな。

 ・・・用心深いにもほどがあるぞ」

「備えというのは、使わないのが一番なんですけどね」

 

ぽかんとしている村人たちに、Eは言いました。

 

「皆さん、こんなこともあろうかと、

 この山のさらに奥に、もう一つ、

 村の全員が身を寄せられる場所を作っておきました。

 

 鉄道敷設で立退きの件が出たとき、

 Dにお願いして建ててもらったのです。

 

 この土地を一旦離れませんか?

 戦が終わるまで、影のように、静かに暮らすんです。

 

 ただ、ここに比べて本当に何もない土地ですので、

 慣れるまでは大変な生活になるでしょう。

 もちろん、行くかどうかは自由です」

 

車椅子に座っている八百屋のTが笑って言いました。

 

「そりゃあ簡単だ。

 オレたちは、元々何もないところから始めてるし、

 気配を消して暮らすのは得意だからな」

 

その言葉で昔を思い出した村の皆はふふっと笑い、

張り詰めた空気が少しだけ緩みました。

 

こうして百輪村の人たちは、

すぐさま移住の用意を始めました。

 

愛する村を離れるのは悲しいと泣く人もいましたが、

「村は土地じゃない。人間が作るものだ」

と誰かが言い、それで全員の気持ちが一つになりました。

 

村全体が、夜の間に静かに移動しました。

 

隣の草切村さえ気づかないほどのしじまの中で。


誰一人欠けず、荷車に乗って山道を進んでいきました。

 

数日後、コチダ国でもアチダ国でも奇妙な噂が広がります。

 

「百輪村が消えたらしい」
「全員、突然いなくなった」
「爆撃に合ったようだが、遺体もなにもない」

 

軍司令部は混乱しました。

「消えた? 全員が? どうやって?」

誰も答えられませんでした。

 

 

1年と数か月後、コチダ国とアチダ国の戦争は、

始まった時と同じように、唐突に終結しました。


双方とも大きな損失だけを残し、疲弊したあとに、

ようやく和平を結びました。

 

にこやかに笑っているのは、軍需産業だけでした。

 

戦争が完全に終わった頃。

百輪村の住民たちは、何食わぬ顔で元の土地に戻りました。


壊れた家があれば、Dと大工仲間が修復しました。
畑も復興しました。
子どもの笑い声も戻りました。

 

誰一人として欠けることなく——


百輪村は、また静かに生活を再開したのです。

 

 

村の掲示板には、Eが書いた短い言葉が貼られています。

 

「平和とは、戦わない勇気を選ぶ力である」と。

 

それを見るたびに、百輪村のみんなは胸が熱くなり、
平和を選んだ自分たちを誇りに思うのでした。

 

 

 

 

ending music

 

Song from a Secret Garden - Secret Garden 

 

 

 

 

 

 

 

(このお話はフィクションです。

 

 実在の物事とはまったく関係がありません)