登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンD(大工) 大吾 デイビッドS(ラーメン屋) 進 スタンF(Dの弟子・大工) 文也 フランクG(Dの弟子・大工) 弦 ジョージO(Sの妻・スタイリスト) 織江 オリーブT(八百屋・車椅子使用) 拓郎 テッド
では、どうぞ。↓
見えない勇気(1)
百輪村の立退き騒動から2年が過ぎた頃。
国中に、臨時ニュースが駆け巡りました。
百輪村のあるコチダ国と隣のアチダ国で、
降ってわいたように戦争が始まったのです。
両国の上層部の間では、
以前から不透明な動きがあるとは噂されていましたが、
その情報は外部には一切漏れていませんでした。
なので、経緯を全く知らなかった
双方の国民は驚愕しました。
理由もわからないまま、
大きな渦に巻き込まれて行きます。
ただでさえ不景気が続き、国民感情が荒れていた中、
突発的な戦のせいで
人々の判断力は徐々に失われていきました。
街中に「勝て!」「安心よりも闘争心」などと
スローガンがベタベタと貼られ、
呑気に暮らしていると
後ろ指をさされるような空気が漂います。
食材や鉄材の供出は当然のこととされ、
若者たちは次々に戦地へ送り込まれていきました。
そんな中、地方の小さな百輪村にも、
その影は静かに忍び寄っていました。
百輪村に住む大工のDとラーメン屋のSは、
元々はアチダ国の住人でした。
祖国の様子が気になると同時に、
異国の地にいる自分たちの身が
どうなるのか気になります。
風の噂で、敵国の人間は
強制収容所に入れられるかもしれない、などと聞き、
DとSは、村長のEに相談に行きました。
「オレたちがいたら、村の迷惑になるかもしれん。
出て行こうかと考えている」
Dが拳を握り、横のSは目を伏せ口を引き締めています。
Eは二人をそっと見つめると、静かに言いました。
「もうあなた方は、百輪村の人間なんです。
もしアチダにどうしても戻りたいなら止めませんが、
ここにいてくれるなら、私たち村の全員が、
あなた方を守ります。信頼してください」
大工のDは、弟子のFとGに囲まれ、
「国籍なんか関係ないっす」
「村を思うなら、むしろ行かないで欲しいです」
と、温かく、そして強く引き止められました。
Sの妻のOも、
「あなたと離れたくない」
と、涙を流します。
DとSは、「わかった」と百輪村にとどまることにしました。
Eはそっとその場を離れ、
陰でひとり、涙をぬぐいました。
(良かった・・・)
(続く)