小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
D(大工)        大吾  デイビッド

 

では、どうぞ。↓

 

見えない軌道(2)

 

 

村長のEは静かに言いました。

 

「皆さん、落ち着いてください。

 まだそうと決まったわけじゃないのですから」

 

Eは、鉄道関係者からもらった地図を広げて、

みんなに見せました。

 

「この新たな計画は、コチダ国の西から東まで、

 一直線に敷設し、最短で移動する形です。

 国家の大プロジェクトといってよいでしょう」

 

「国のことだから、我慢しろっていうのか?!」

 

「いえ。立退きの話は一旦、横に置いて、

 この地図を見てください。

 そして、ここからわかることを教えてください」

 

「わかること?」

 

「はい。この地図には”何が書かれていて、

 何が書かれていない”でしょうか?」

 

みんなは地図と資料を見比べて、考え始めました。

まるでE先生の授業を受けている気分になります。

 

Eが普段担当している子どもたちの方から

次々と手があがります。

 

「はい!山の中をたくさん通ります。

 トンネルも必要です」

「いくつかの町や市の上も通っています。

 これ、大丈夫なのかな?」

「川もたくさん横切ってるけど、橋を作るのかな」

 

大人たちは、ああ、そういう感じか、と合点がいき、

自分たちも口々に言い始めました。

 

「ちょっとさ、この県の地盤、ゆるいんじゃないの?」

「こっちの県は、地震が多い地域だよね?」

「ちゃんと高低差を考えて線を引いたのかな?」

「東西を最短でって、需要があるのか?」

「そもそも、これって何のために作るんだろうね」

「早いのってすごいけど、他の国に自慢したいだけ?」

「ビジネスや観光の拠点って言ってるけど、

 国の端と端を結んで、どこを観光するんだ?」

「まあでも、夢はあるかもねー」

「正直、ちょっと乗ってみたい気持ちはあるよ」

「旅客機を増便するだけじゃだめなのかな?」

「作るにしても、自然破壊は最小限に抑えたほうがいい」

「料金設定とか利用者数とかはどうなんだろうか」

「37%が完成を期待しているって円グラフがあるけど、

 何人にアンケートを取ったか、って数字がないです」

 

・・・などなど、たくさんの言葉が飛び交いました。

 

どんな意見も否定されない、百輪村の全村民会議。

 

ほんのちょっとした気持ちも疑問も

荒唐無稽な質問もすべて発言可能です。

 

ホワイトボードに意見を書き終えたEは

ニコニコして、拍手しました。

 

「皆さん、さすがですね。

 本当に多彩な視点をありがとうございます。

 ・・・私の意見も言わせてもらうと、

 この計画は理想が先行して、

 現実を十分に考慮していないように思えます」

 

大工のDが腕組みをして、村長のEに言います。

 

「・・・でもE、どうするんだ?

 相手は国だ。

 やっぱりどこかで覚悟を決めろって話に

 なるんじゃないのか?

 何か対応策を考えたほうがいいんじゃないかな?」

 

「D、今のこの会議も作戦のうちですよ」

 

「ん?」

 

「つまり、軌道を変えさせるんです。

 私たちが、もっとよい軌道を考え出すんです。

 もちろん全部を変えなくてもいい。

 

 うちの村が軌道から外れるような、

 それでいてスムーズに工事が進むような、

 そんな通り道をみなさんで探してみませんか?」

 

百輪村の皆は目を輝かせて、

もう一度地図を見始めました。

 

 

(続く)