小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
U(バーテンダー)    梅吉  ウニー
T(八百屋)       拓郎  テッド  
μ(無職の青年)     未宇  ミルトン
 
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
D(大工)        大吾  デイビッド

 

では、どうぞ。↓

 

見えない使命

 

 

 

  

 

ある夜、百輪村のカフェバーに、

八百屋のTがお酒を飲みに来ました。

 

「いらっしゃい、Tさん。いつものですか?」

バーテンダーのUが、挨拶します。

 

「ああ、頼むよ」

Tはカウンターに座ると、早速Uに話しかけました。

 

「U、お前もバーテンの貫禄が出てきたなあ」

 

「いえいえ、とんでもない。まだまだです」

 

「まだお前の仕事が決まらなくて、

 村の中をオロオロしてたのが昨日みたいだな」

 

「八百屋のお仕事を手伝ったこともありましたね。

 その節はお世話になりました」

 

「ああ、いいんだよ。早起きのできないお前には

 ちょっと無理な仕事だったよな」

 

「・・・」

 

Uは、Tの前にハイボールのグラスを出しましたが、

(またあの話か)と内心、げんなりしていました。

 

「まあ、お前はギリギリなんとかなったようなもんさ。

 でもさ、あいつはやっぱ、ダメだよな。

 仕事の決まってない、あの若いの。

 はっきりいって、使えねえよ。

 村から出てってくれねえかなあ」

 

八百屋のTは、ひきつったように口角の片方を上げながら、

皮肉っぽく語ります。

 

Tの言う『あいつ』とは、Uの同級生のμ(ミュー)です。

まだ村の中で、これといった仕事を持っていません。

 

体は大きいものの、動きがスローモーで不器用なμは、

どんな仕事をしても上手にできませんでした。

 

Uはμの肩を持つように、言いました。

「僕みたいに、そのうち見つかると思いますよ」

 

「どうかねえ。家でゲームばかりしててさ、

 たまにブラブラ外歩きしてるだけだ。ダメだろ」

 

「・・・」

 

Tは話題がないと、いつもμの悪口を

酒のつまみにするのでした。

 

無言でグラスを磨き始めたUに、

Tはいじわるそうな笑顔を向けます。

 

「うちの村はさ、みんなで働いて、その金を

 みんなで分配する仕組みになってるだろ。

 だったらさ、働いてない奴は、

 まんま、丸儲けってわけさ。

 そんなの、ずるいだろ?なあ?」

 

「・・・」

 

実はUも無職の時に、Tに何度もそう言われたために、

頑張って仕事を探し、あれこれ試した後、

やっとバーテンダーの職を見つけたのでした。

 

「あーあ。なんで、Eは、μを追い出さないのかねえ」

と、Tは村長の名前も出してきます。

 

「・・・きっと、村長にも考えがあるんでしょう」

Uは、そういうのが精一杯でした。

 

 

 

 

  2

 

それから数日たって、野菜を店に並べていたTが、

突然、強烈な頭痛を感じ、店先で倒れてしまいました。

 

脳梗塞でした。

結果的にTは下半身不随となり、

立ち仕事が出来なくなってしまいました。

 

Tには妻がおり、

家で寝たきりになったTの世話をしながら、

八百屋の仕事を続けます。

 

家のベッドの上で青い顔のTは妻に対して

「すまねえな・・・」と小さくつぶやきました。

 

妻は「しかたないわよ、こればっかりは。

 生きてるだけで、十分ありがたいことじゃない?  

 あんたらしくないわねえ。辛気臭い顔はやめてよ」

と笑い、気丈にふるまうのでした。

 

村長のEが、Tのお見舞いに来ました。

「T、調子はどうですか」

 

「最悪だよ、E。オレはもうだめだ・・・」

 

「お口は元気でなによりです」

 

Eは静かに微笑みますが、Tの気持ちは沈んでいます。

 

「E、オレは、もう村のために働けねえんだ。

 お荷物だよな。追い出してくれてもいいぜ」

 

「・・・私からはそのようなことはしません。

 ここを出たとしても、どこかアテはあるんですか?」

 

「そんなもん、ねえよ。

 でも、ここにいても、いたたまれねえし」

 

「では、どこに行っても、同じでは?」

 

「・・・そうだな。どこへ行ったって、

 役に立ちゃあしないんだ。

 いっそ死んだ方が・・・」

 

「それ、Dも以前、言ってましたよ」

 

「Dはもう回復した!でもオレの体は動かないんだ!」

 

「まだそうと決まったわけじゃないですし。

 多少なりともリハビリしたほうがいいと、

 お医者さんも言ってたそうじゃないですか」

 

Tは毛布を握りしめ、絞り出すように言いました。

 

「そんなの、どのくらいかかるかわかんねえぞ。

 その間、一銭たりとも稼げねえんだ。

 リハビリだってどのくらい効果があるんだか。

 村の”厄介者”にだけは、・・・なりたくねえんだ」

 

Eは、ベッドのそばの椅子に座って静かに言います。

 

「好きなだけ、この村にいてください。

 村長の私がそう言ってるんですから」

 

そして、こう言い添えました。

「・・・でも、このままだと、ちょっと困りますかね」

 

「・・・やっぱ、そうだよな・・・」

Tは泣きそうな顔になりました。

 

Eはその顔をしばらく見てから、また言います。

 

「T、あなたが”厄介者”にならない良い方法があります」

 

「なんだ」

 

「天気のいい日は村の中を散歩してください。車椅子で」

 

「散歩?でも、女房は忙しいから介添えは・・・」

 

「大丈夫です。実はもう、μにお願いしてありますから」

 

「え?μ?あいつ?まあ、暇だろうけどさ・・・」

 

Tの頭の中には、どんくさく見えるμの姿が

現れては消えました。

 

 

 

 

  3

 

その後、晴天の日になると、

体の大きなμがTの家にやってくるようになりました。

 

「おはようございます。Tさん、散歩しましょう」

 

Tは妻とμに手伝ってもらいながら、車いすに移ります。

 

「では、旦那さんをお借りします」

 

「いってらっしゃーい」

 

μと妻の声は明るいのですが、

Tは終始、むっつり顔でした。

 

車椅子に乗っている間もTは口が真一文字。

μもまた黙ってゆっくりと車椅子を押します。

 

無言のまま1時間ほど同じルートで村をめぐり、

また静かにTの家に帰りつきます。

 

μは、Tをベッドに戻すと、

「じゃあ、また」と言って、帰っていくのでした。

 

 

そんな習慣をずっと続けているうちに、

とうとうTは振り向いて、

車椅子を押すμに言いました。

 

「なあ、おい。

 オレたち、今、何の役にも立ってないよな。

 ただ、村を意味なく回っているだけだ。

 一銭の得にもならねえ。

 お前も、こんなことしなくたっていい。

 なんか別の仕事を見つけて、働いてくれよ」

 

μは驚いて、車いすの前方に回り込みました。

 

「Tさん、僕が押す間、働いてなかったんですか?

 頼みますよ、ちゃんとやってくれないと」

 

「は?」

 

「村長に聞いてなかったんですか?」

 

Tはうろたえました。必死になって記憶をたどります。

 

「え・・・Eはただ、散歩してくれって・・・」

 

「ただの散歩じゃありません。

 僕らには、大事なミッションがあるんですよ」

 

「ミッション?・・・スパイ活動か?」

 

Tは、思わずハッとした顔をしました。

 

μは、すぐそばに咲いている花を一輪、

プチリとそっと手折ると、Tに握らせました。

 

「この花と同じ仕事です」

 

「何を言ってるんだか、よくわからないんだが?」

 

μはTの言葉に何度か頷きます。

 

「・・・僕も初めて同じことを村長に言われたとき、

 意味がよくわかりませんでした。

 なので、村長の受け売りですけど・・・」

 

と、μは、苦笑いをしながら、話を続けます。

 

「僕、この村で、うまい仕事が見つからなくて。

 何をやっても上手にできなくて、家で凹んでました。

 そうしたら、ある日、村長が散歩に誘ってくれて、

 一緒に歩いてくれたんです。

 

 村の中、いつも花盛りじゃないですか。

 それを指さして、村長が言ったんです。

 

 『μ、村には花がいっぱいだね。たくさん咲いてるね』

 『これを、舞台のペンライトと思って見て。

  一つ一つの花が、

 百輪村の舞台を明るくしてくれてるんだよ』

 って」

 

「・・・」

 

「それで、村長が、僕に頼みがあるって。

 『μ、出来るときでいい。村を笑顔で歩いてほしいんだ。

 そうしたら、その一つ分、村が明るくなるから』って」

 

「・・・」

 

「だから僕、村を歩くときは、絶対に笑顔でいるんですよ。

 それが僕のミッションです」

 

Tは手元の花を見つめ、ボタボタと涙を流しました。

 

「・・・すまなかった、μ・・・。

 正直言って、お前のことずっと、

 村のごくつぶしみたいに考えてた。

 ほんとうにすまん。

 

 お前はずっと・・・

 オレよりもよっぽど役に立つ・・・

 立派な仕事をしてたんだな・・・

 オレ、何も気づいてなくて・・・」

 

肩を震わせるTに、μは、にっこりしました。

 

「いいんですよ。

 僕もぜんぜん知らなかったんですから。

 村の花がすごい仕事をしてるって」

 

 

それからというもの、

「これでどうだ?μ」

「はい、Tさん。OKです」

と、お互いの顔面チェックをして、Tの家を出ます。

 

百輪村のみんなは、

はじけるような笑顔で巡回する二人を見て、

「いつもご機嫌でいいね」

「こっちもついつい笑っちゃうよ」

「今日も笑顔パワーをありがとうな」

などと言いながら、笑顔を返し、手を振るのでした。

 

こうして百輪村では、

密かなミッションが常時行われているのです。

 

 

 

 

ending music

 

世界に一つだけの花 - SMAP