小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
E(村長&小学校教諭)栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)  加恵  カーラ
R(EとKの息子)   陸 ライアン(ジュニア)
 
V(パートタイマー・元SE) 美々 ビビ
D(大工)        大吾  デイビッド
F(Dの弟子)      文也  フランク

C(百輪村の守護霊)   千太郎  クリス

 

では、どうぞ。↓

 

見えない仕事

 

 

 

  

 

「それだけじゃ甘いと思います!」

と、全村民会議でまっすぐ挙手をしたVが

立ち上がりながら大声を出しました。

 

Vは百輪村の一人です。

以前システムエンジニアとして都会で働きましたが、

不景気のために職を失い、出戻ってきた女性で、

今は隣の草切村でスーパーのレジを打っています。

 

今回の会議にて、

村長で小学校教諭をしているEが言っていたこと・・・

「少し体調を崩したので、申し訳ありませんが、

 小学校で出す宿題をやめました。

 ご父兄の皆さん、ご了承ください。

 また、村でのささいなもめ事に関しては、

 当事者同士の話し合いで決めていただきたいです」

そんなEの提案に対する、Vの反論でした。 

 

村人たち全員が、Vに視線を向けます。

Vは続けました。

 

「私は村を出て、シティでSEとして働いた経験から、

 会社の仕組みとかを見てきたから、わかるんです。

 明らかに村長は・・・Eさんは働き過ぎです!」

 

ホワイトボードの前で黒マジックを持っていたEが、

小さくため息をつきながら、

「村長 働き過ぎ」と美しい字で書きました。

 

そのあとVに向き直って、

「・・・で、私のどこがですか?」と尋ねました。

 

「そうやってボードに書いていることもそうです!」

VはつかつかとEのところにやってきて、

半ば乱暴にペンを奪います。

Eは、Vからそっと離れて、空席に座りました。

 

「では、私の思いつくまま列挙しますよ」

Vはホワイトボードの真ん中に”E村長”と書いて、

くるっと輪で囲みます。

その輪の周りに、色んな言葉を書き込んでいきます。

 

「まずは、村長としての仕事がありますよね。

 近隣の村長たちとVIP会議に出席したり、

 この村に観光客が来たら案内役になり、

 村にもめ事があれば相談役や調停役になってます。

 

 そこまでは、まあ、いいとしても、

 全村民会議の主催も司会も書記もやって、 

 ぼやが発生したら消防の指揮官になります。

 村の収支決算も引き受ける財務管理もしてて、

 毎日村をくまなくパトロールしてて

 不審者や危険物を発見すれば警備員になり、

 村のイベントがあれば幹事になって

 仕出し弁当の手配までやってますよね?

 回覧板の文書作成も、ぜんぶやってる。

 

 それだけじゃないです。

 Eさんは小学校の先生もやってますし、

 奥様とお子さんもいて理想の夫もやってる。

 その前にはバーテンダーもやってたから、

 村の皆のためのお茶くみ係でもあったし~。

 村の畑にも出て、耕すこともあるし~。

 

 ・・・あー、ボードのスペースが足りないや・・・

 とにかく、一人で背負う量ではないです!」

 

Vがカツカツと音を立てながら、

ボードをドンドン真っ黒にしていくのを

Eを含め、村民たちはあっけにとられて見ていました。

 

 

 

 

 

  2

 

ホワイトボードを書き終えたVはみんなに向き直ると、

教卓を両手でバンと叩きました。

 

「私は提案します。みんなで係を決めて、

 村長の仕事を少しずつ分担すべきだと。

 もちろん、私もそれなりの仕事を引き受けます。

 村のデータ管理は私がシステムを作ります。

 それ以外にそれぞれが出来そうなことを、

 責任を持ってやって欲しいです」

 

村長のEは頭をかいて、

「数は多いかもしれないが、負担じゃないよ。

 それに、やりたくてやってるんだし」

と言いますが、村人たちはEが倒れたのを見ており、

公民館の中がざわつきました。

 

「いやいや、V、よく言ってくれたな」

「そんなにEにやらせてるとは気づかなかった」

「村長が倒れるのも無理はないよな」

「私、会議の書記係になりますよ」

「じゃあ、オレ、消防係の指揮をやるわ」

「私、イベントの取りまとめをやりたい」

「えー、それ、僕もやりたいな~」

「じゃんけんで決めようぜ」

 

周りで盛り上がってきた声に頷いたVは、

いったんボードを全部消して、

係と立候補者名をどんどん書いていきました。

 

妻のKも、Eのそばに来て言いました。

「ごめんなさい。あなたのほうが家事が上手だから、

 ついお任せしてたところも多かったわ。

 私、甘えすぎてたかもしれない。

 これからは、家のことは全部、私がやるから」

 

「えっ?いや、いいんだよ、K。気にしないで。

 今後もできる範囲でやるからね」

 

「そう言って、全部あなたがやってたじゃないの。

 もういいの。あなたは家では座ってるだけでいいから」

 

「K、君は笑っているだけでいいんだよ」

 

「いいえ、今日から立場を逆にして頂戴!」 

 

Eの仕事はあらゆる角度から切り分けられて、

気がつくと、「村長」という肩書と、

「小学校の先生」としての仕事だけが残りました。

 

「・・・というわけで、

 これらの係決めが満場一致で決まりましたので、

 Eさん、承認をお願いします」

と、本日の司会になっていたVが言い、

村人たちも一斉にEに顔を向けます。

 

「・・・わ、わかりました。でも、何かあったら、

 皆さん、私に相談してくださいね」

と、言うのが精いっぱいのEでした。

 

 

 

 

  3

 

全村民会議での全員一致の決定により、その日から、
村長のEは、手持ち無沙汰になってしまいました。

 

もちろん学校の先生としての仕事はありますが、

それ以外のこまごました業務を失いました。

 

昼夜を問わず大車輪で村中を駆け回っていたのに、

まるで隠居生活が始まったかのような落差を感じます。

 

 

学校が休みの日、家でゴロゴロしていたE。

 

掃除か洗濯でもしようものなら、

家で理髪店の仕事をしている妻のKが、

「E。座ってて!」と怒鳴るので、諦めます。

 

1歳の息子の相手をしようかと思いましたが、

ジュニアは絵を描くのに夢中で、

父親のEがすることは特にありませんでした。

 

「Cに働き過ぎて認知症コースだなどと脅されたが、

 今度は逆に暇すぎて頭がぼやけそうだな・・・」

と、Eは思い始めましたが、ハッと気がついて

「いかん。意識が現実を作るんだった。

 ポジティブな何か・・・

 何かできることを探そう」

と上着をはおりました。

 

ジュニアに「散歩に行かないか?」と声をかけるも、

「お絵描きするの~」とつれないので、

店のKに「少し村を回って来るよ」と断ってから

Eは一人靴を履いて外に出、村中を歩き回りました。

 

すると、村人たちが、

「村長!パトロールですか?やらなくていいですよ」

と声掛けしてくるので、

「違う違う。ただの散歩。散歩だから!」

と、両手をバイバイと振り、慌てて訂正をするEです。

 

共同倉庫から鍬を持ち出すと、また別の村人が来て、
「村長!畑のことはこっちにまかせてください」
と言うので、「あ、そう」と
すごすごと引き下がるしかありません。

 

Eは村のベンチに座り、深く息をつきました。

ベンチには木漏れ日が差し、頭上から鳥の鳴き声がします。

足元には小さな花が咲いており、

頬には柔らかな風を感じました。

 

「・・・いいんだろうか。

 村長なのに、こんなにのんびりしてて・・・」

 

Eは、ベンチに5分と座っていられず立ち上がると、

手近な雑草をむしり始めます。
 
そこへゴミ袋と火ばさみをもった村人が来て、
「村長、そこは私がやりますから」
と、またしても仕事を取られてしまいました。
 
村の掲示板のプリントが斜めになっていたら
貼り直そうかと思いましたが、そこもすでに整っています。
 
家に戻ったEは、縄跳びを取り出し、
家の裏で高速の縄跳びをしたり、腕立て伏せをしたり、
走り込みをしました。
ですが、その体力維持ルーチンもやり終えてしまいました。
 
「こういうとき、みんなは何をしているんだろう。
 ・・・ちょっとDに相談に行くか」
 
大工のDも今日はオフと聞いていたので、
EはマブダチDの家に行くことにしました。

 

 

 

 

  4

 

家のチャイムが鳴ったとき、独身のDは
映画のDVDをのんびり見ていました。
 
玄関に出るとEがしょんぼりして立っているので、
「ど、どうしたんだ、E?」
とDは慌てて家の中に入れました。
 
「聞いてくれ、D。
 この間の会議でオレの仕事がほとんどなくなって、
 もう、何をしたらいいかわからないんだ」
 
Dがコーヒーを入れている間、
Eはテーブルで頭を抱えていました。
 
「何って、のんびりしたらいいだろ?
 今まで忙し過ぎたんだからさ。羽を伸ばせよ」
 
「人間に羽なんかないだろ!」
 
「ただの例えじゃないか。好きにしたらいいだろう?」
 
「みんなが、好きにやらせてくれないんだ!」
 
「ピリピリしてるなあ。ほれ、コーヒーだ。
 映画見るか?いっぱいあるぞ。好きなのある?」
 
「映画?見たことないから、わからないな」
 
「・・・ウソだろ?」
 
Dは絶句しましたが、すぐ気を取り直し、
ちらかった部屋のあちこちからDVDを拾い出して、
その中の1本をセットしました。
 
「これは名作だぞ~」
「ふうん。そうか」
 
2人は静かに20分ほど恋愛映画を見ていましたが、
真剣な面持ちのEが、横にいるDに言いました。
 
「・・・D。映画の内容が頭に入ってこない」
 
「あ、そうなんだ。別のにしようか?」
 
「いや、もう、それより、我慢の限界だ。
 お願いだ。好きにやるのを許してくれないか。
 本当に1度、・・・1度だけでいいんだ」
 
「え」
 
「後悔はさせないから。もう、君にしか頼めない」
 
Eが、Dににじりよります。
Dは気おされて、少し後ろに下がります。
 
「ちょ、ちょっと待て。そういうのは、Kちゃんに」
 
「Kがもう、やらせてくれないんだ!」
 
「・・・ええっ??・・・あ、その・・・。
 ・・・う、わ、わかった。一回だけだぞ」
 
「ありがとう、D」
 
そう言うとEは、シャツの第一ボタンを外しました。
 
 
その2時間後、すっきりした顔のEが
Dの家から出て行くのを、Dの弟子のFが目撃しました。
 
「あれ?村長?・・・親方んとこにいたんだなあ」
と思いながら、Dの家のチャイムを鳴らしました。
 
「親方~、借りてたDVD、返しに来たっす」
「お、おう」
Dがドアを開けると、Fは面食らいました。
Dがサングラスをかけています。
 
「親方、ど、どうしたんすか?
 ちょっと、この部屋・・・まぶし過ぎるっす!」
Fが両手で目をふさぎつつ、指の隙間から様子を見ます。
 
「ああ、Eがな、部屋の隅々まで掃除して、
 窓も壁も全部ピッカピカに磨いてくれたんだよ。
 オレもまぶしくて目が痛いんだ」
 
「親方の家じゃなくなってるっすね」
 
「心置きなくやらせてやったからな。
 まさかここまでやるとは思ってなかったが」
 
「あはは、いいなあ。
 おいらんちもやって欲しいっすよ」
 
「じゃあ、サングラス買っとけよ」
 
「嘘っす。無理っす」
 
 
 
その後、次の全村民会議でDが
「Eが畑仕事をやるのをゆるしてやって欲しい」
と提案するまで、Dの家は遠くまで輝いていました。

 

 

 

 

 

 

ending music

 

Better Together - Jack Johnson