小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
発明家        (No name)
D(大工)       大吾  デイビッド
L(揚げ物屋)      蘭子  ルイーズ
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)   加恵  カーラ
R(EとKの息子)    陸 ライアン(ジュニア)

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない稼働

 

 

  

 

ある日のこと。

 

いつも平和でのんびりしている百輪村に、

突然、一体のロボットが出現しました。

 

それは、村に住む発明家が作ったものです。

 

スタートボタンを押した人間のデータが

微量な生体電気を通じてインプットされ、

その人の仕事を一日やってくれる、

という触れ込みでした。

 

村のみんなは、二足歩行が可能な人型の銀色ロボを

遠くからじっと見るだけです。

だれも試そうとはしません。

 

発明家はしょんぼりして、

「誰か、試しにやってもらえませんか?」

とさめざめと泣くので、

同情した大工のDが、

「よし、じゃあ俺が押そう」と

スイッチを入れました。

 

すると、ロボの目がぴかっと光り、

「よっしゃ、今日も頑張るぞ!」

と、Dの口調を真似てしゃべり出しました。

 

みんなは、「おお!」と声を上げます。

 

ロボはDの工具箱を開け、ハンマーと釘を取り出すと、

修復中の家の屋根にはしごをかけて

トンカントンカンと修理を始めました。

 

作業をする姿も、ちょっぴりガニ股で歩く様子も、

まるでDそっくりです。

 

「・・・おいおい、大丈夫かよ?」

と、Dは心配そうに階下から見上げてましたが、

そのロボの仕事が終わって降りてきた後、

自分も屋根に上がって、仕上がり具合を見に行きました。

 

まるでDがやったように完璧な仕上がりだったので、

屋根を降りたDがみんなに感想を述べました。

「すごいぞ。おれの仕事、そっくりに出来てる!」

 

村の皆は、急に色めき立ち、

「次はオレだ」「じゃあ、次は私!」「おいらも~!」

と、ロボの取り合いになりました。

 

発明家はニコニコして、

「良い発明が出来てよかった。

 みなさん、休みたいときはぜひロボを使ってください」

と、喜んでいました。

 

フィッシュアンドチップスの揚げ具合も

L婆さんのやり方をそのまま再現しました。

花屋のアレンジメントもお手のもの。

クリーニング屋では洗い物も接客もこなし、

畑の雑草取りも完璧、

パン屋でのパン生地のこね方や焼き方も・・・

とにかく、ありとあらゆる仕事ができます。

 

ボタンを押した人の仕草を

完全にコピーして動くロボでした。

 

ロボは、村で引手あまたの人気者になりました。

 

 

 

 

  2

 

村の発明家が作ったロボは、

みんなで順番に使うことになりました。

 

ある日、理容室のKの番が来ました。

 

Kはワクワクしながら「よろしくね。えい」と、

ロボのスタートボタンを押します。

 

指先からデータを入力したロボは、

普段のKと同じように接客をします。

 

椅子に座っていたお客さんの髪を、

右手に持ったハサミで

チョキチョキと切り始めました。

 

「えー、すごいわー。私のやり方通りね」

と、Kが感激していると、

ロボの左手からポロリと櫛が落ちました。

 

あわてんぼうのKの癖を

そのままロボが真似をしたのです。

 

「うん。・・・私のやり方通りね」

と、Kはちょっと複雑な気分になりました。

 

いつものKは、お客さんがいないとき、

理容室の奥にいる息子Rの世話をします。

 

なので、仕事が一段落したロボも

店から中に入っていき、

「ジュニア~、絵本を読もうか~」

と言いながら、1歳のRに近づきました。

 

積み木をしていたRはびっくりして

ロボから逃げ始めます。

 

ロボは「待って、ジュニア~、ママよ~」

と、Kの声音で追いかけるのですが、

Rは「わーん、ママじゃない~」

と大泣きしながらリビングを走ります。

 

Kはあわててロボの後ろから近づき、

すぐさまスイッチを切りました。

 

ロボは、ぴたりと直立不動になって止まりました。

 

KはRを抱っこしてなだめながら、

「真似されてもうまく行かないことってあるのね・・・」

と、ため息をつきました。

 

 

Kの所ではアクシデントめいたものがありましたが、

おおむねロボは村人たちに好評でした。

 

けれども、たった一人、

試そうとしない人物がいました。

それは、村長のEでした。

 

「私の仕事は、私がやりますから」

と、責任感のあるEは、頑なに拒みます。

 

Dは、そんなEの肩をポンと叩いて、

「なあ、E。

 お前が一番この村で働いてるんだ。

 一日くらい、仕事をロボに任せたって

 罰は当たらないぞ?」

と優し気な目を向けるので、Eは諦めました。

 

「・・・しかたない。一回だけですよ」

 

 

 

 

  3

 

村長のEは、小学校教諭の仕事も持っています。

 

なので、早朝、Eがロボのスイッチを入れると、

ロボは学校へ行ってカギを開け、

子どもたちが来る前に

教室の掃除をささっとすませ、

すべての教科書に目を通して

本日の授業の準備と段取りをしました。

 

そうこうしているうちに子どもたちが登校します。

 

「おはよう。今日も楽しくやろうね」

とロボが、Eの声でしゃべるので、

子どもたちはクスクス笑って、

「ロボのE先生、おはようございます」と言いました。

 

本来ならE本人は休んでもいいはずなのですが、

教室の子どもたちが心配で

窓の外からEが覗き込んでいました。

 

ロボは、Eの生き写しのように動き、しゃべり、

子どもたちに丁寧に教えています。

 

それを見てEは

「自分はいつも、ああいうふうにやっているのか。

 でも、もうちょっと

 あそこはこうしたほうがいいかもしれない」

などと、さらに自己研鑽を考えてしまうのでした。

 

そこへ大工のDが野次馬のようにやってきて、

「E。どうだい?ロボの様子は」

と尋ねてきたので、

振り返ったEは真面目に答えます。

 

「うん、これは素晴らしい発明だよ。

 自分を客観的に見られるね。

 おかげで改善案がいくつか見つかったよ」

 

「・・・おいおい、休みになってねえな」

Dは苦笑いしました。

 

 

授業は滞りなく進み、子どもたちは下校します。

 

ロボは、子どもたちが提出したノートを開いて
その場でささっと丸付けをしました。
 
それから学校の戸締りをして、
今度は村長の仕事を始めました。

 

 

 

 

  4

 

Eの村長の仕事は、村をぐるっとめぐって、
何か不備がないか、変わったことがないかを
パトロールするのです。
 
何か困ったことがあれば、このタイミングで、
村民が近づいてきてEに話しかけてくるので、
Eはその場で相談に乗ったり、
次の村民会議の議題にするかを決めます。
 
ロボもまたそのように動きました。
面白がって、EとDもロボの後をついていきます。
 
途中でロボの足が止まりました。
目線の先には、Eの妻Kが
Rを載せたベビーカーを押しながら
肉屋で買い物をしていました。
 
買い物の終わったKは、
ロボとその後ろにいたEとDに気がつき、
手を振りながら「E、今日はカレーにするね」
と言って、笑いかけました。
 
Eは「うん、わかった」と手を振ると、
ロボもタイミングよく真似して
「うん、わかった」と仲良くハモりました。
 
Kはふふっと笑って、家に戻っていきました。
 
するとロボは、手に持っていたノートに
立ったまま、何かを書き始めます。
 
Dが「ん?何を書いてるんだ?」と覗き込むと、
『Kのカレーは最高だ。食べられるオレは幸せ者だ』
と書いていました。
 
Eは顔じゅう真っ赤にして、
「私の”推し活”まで真似するな!」と怒りました。
 
肩を震わせ笑いをかみ殺しているDと別れ、
ロボとEは家に戻りました。
 
EはKの作ったカレーを堪能しましたが、
食事をしないロボは家に帰ってからも
次回の全村民会議についての定義書をまとめ、
生徒たち一人一人の様子をノートに書きつけ、
三者面談の資料も作成し、
明日の授業の準備をし、テストの問題を作りました。
 
「ありがとう。もう十分だよ」
内容を確認したEが声を掛けましたが、
デスクワークの終えたロボは椅子から離れ、
今度は外に出て、高速の縄跳びをしたり
何度も走り込みをして筋トレをします。
 
まさかそこまでするとは思わず、Eは驚きましたが、
(筋トレの真似事が終わったら
また家に戻って来るだろう、
そのときにスイッチを切ればいい)
と考えました。
 
ところが、しばらくして家の外から
「ボンッ!ガシャーン!」
と、けたたましい音が響きます。
 
Eが急いで音のする方へ走っていくと、
ロボが頭から煙をもくもく出して倒れていました。
 
手足はバタバタ、口からは
「ヒュ~ヒュ~」と小さな笛のような音。
 
Eは慌ててロボを抱え、発明家の所へ運びます。
 
調べてもらうと、Eの真似をしたロボは、
思考回路と身体をフル稼働させすぎて、
オーバーヒート。
もう修復不能でした。
 
「こんなことで壊れてしまうなんて繊細だなあ」
と、Eがロボを見下ろしていると、
発明家が半泣きでつぶやきました。
「私は村長にセーフティ回路を取り付けたいですよ」
 
 
こうして百輪村に、
また新たな伝説が生まれました。

 

 

 

ending music

 

 
The Typewriter - Leroy Anderson