登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
今回のお話は、百輪物語の登場人物たちの
前世の話になります。
Cの国C 国王 クリスK Cの妹 →A国へ カーラD Cの側近 デイビッドJ Dの部下 ジャックB 踊り子 →A国へ バーバラAの国A 国王 アークK Aの一人目の妻 カーラB Aの二人目の妻 バーバラE Aの第一王子 エデンF Aの第二王子 フランクG Aの第三王子 ジョージ
では、どうぞ。↓
見えない因縁
1
昔々のお話です。
ある国にCという王様がいました。
Cは、自分の国をとても愛しており、
国民から慕われていました。
そしてなにより最強の戦士でもありました。
Cには、最愛の妹のKと、
側近の兵士で親友でもあるDがいました。
Dは竪琴が得意で、月の明るい晩には
城の広間でCとKのために静かな曲を奏でました。
親友の織り成す調べに耳を傾けていたCは、ふと
KがDを見つめる熱い視線に気づきました。
またDも演奏中、時々Kの方をちらりと見ては
頬を赤らめています。
ふたりとも内気であったために告白をしておらず、
Cは良い頃合いに二人を結婚させようと思っていました。
そんなとき隣国の国王Aと諍いが起き、
一触即発の事態となりました。
Cの国の人が馬車を走らせているときに、
運転を誤りAの側近をひき殺してしまったのです。
Aは激怒しましたが、以前からKを狙っていたので、
「Kと結婚させてくれるなら、許してやる」
とCに持ち掛けました。
思い悩んだCが、Kに相談したところ、
「我が国のため、兄のため、私は喜んでAの国に嫁ぎます」
と、涙を浮かべながらも笑顔でKは承諾しました。
密かに泣いていたのはDも同じです。
嫁ぐ前夜、Dは王の妹であるKに額づきました。
「無礼なことは重々分かっております。
・・・ですが、どうか一度だけ、
接吻を許していただけないでしょうか」
「D・・・今夜は私を姫と呼ばないでください」
KとDは互いに涙を流しながら、
永遠の別れとなる長いキスをしました。
翌日Kは豪華な馬車に乗り、Aの国へ嫁いでいきました。
Cは傍にいるDに言いました。
「すまない。お前の気持ちを知っていながら・・・」
「これが運命だったのでしょう」
Dは静かに微笑みました。
AはCの国から到着したKを見るなり有頂天になりました。
噂で聞くよりも、美しく可愛かったからです。
Cの国とけんかをするのはやめ、AはKを愛しました。
ほどなくしてKは、第一王子を生みました。Eでした。
Eは母親のKに似て、心の優しい少年に育ちました。
戦うことが嫌いで、勉強ばかりしていました。
Kはそんな息子を誇りに思い、目を細めました。
一方、父親のAは机にかじりつく息子を苦々しく思い、
もっと強くなるようにとEを鍛えました。
けれどもKから見ればそれは拷問に見えました。
「ああ、やめてください。Eをいじめないで」
とKが懇願するも、Aは払いのけ、
「いじめているのではない!鍛えているんだ!」
と、耳を貸しません。
2
「ああ、J。
・・・来世で必ず会いましょう。
今度は、きっと・・・あなたの妻になります」
3
有能な部下Jの死に、CとDの胸は張り裂けそうでした。
城の庭に焚かれた火の前で、二人は沈黙のまま座り込み、
炎に照らされた拳を固く握りしめていました。
やがて、Cの目に焚き火の赤が映りこみ、
「Aの国に攻め入ろう」と声を荒げます。
しかし、Dが必死に押しとどめました。
「国が荒れます。ここは抑えてください」
「お前はそれでいいのか?Jが殺されたんだぞ?!」
「・・・どうか、どうか、矛を収めてください。
それが、Jの望みでもあったはずです」
「・・・」
けれども、Aが外交上の密約に再三、
無理難題を押しつけてきたことで、
ついに堪忍袋の緒が切れました。
「もうどちらかの国が亡びるしかないようだ。
もちろん、私が勝つ。D、ついてこい」
「かしこまりました」
二つの国の間で、長い戦争がはじまりました。
AとCは互いに戦力が五分五分で
なかなか勝負がつきません。
兜を脱いだAが、城に隠れる息子のEにそれを投げつけます。
「お前も参戦しろ!次期国王がへっぴり腰でどうする?!」
Eは涙をこらえながら、のろのろと兜を拾いました。
「どうして戦争が起こるのか・・・。
どうして愛し合うことが出来ないのか・・・。
やはり自分がもっと強くなくてはいけないのか・・・?
けれど僕は、人を殺したくないんだ・・・。
J、僕を守って・・・」
最終的にCの国は焦土と化し、Aの国も弱体化しました。
「王、まだ続けるのですか?もう国がボロボロですよ」
と、Dが思い余ってCに進言しますが、Cは
「いや、最後までやる。私の意地にかけても」
と、血走らせた目をDに向けます。
Dは自分の部下の兵隊たちをどんどん失っており、
もはや長い戦に対してうんざりしていました。
4
Cの国とAの国の戦いは、最終局面を迎えました。
それぞれが兵の数を減らし、
最終決戦で王同士の一騎打ちになりました。
馬に乗った2人が、正面から剣で打ち合います。
とうとうCがAに長い剣を突き刺しました。
Aは血を吐きながら
「生まれ変わったら絶対に俺がお前を殺す」
と恨みつつ、馬から落ちて絶命しました。
息子のEもその戦に参加しており、馬を走らせて
父Aの亡骸に近づくと、下馬して縋りつきました。
「・・・よくも・・・父さんを・・・」
CとDは、少年Eに近づきます。
「私はお前の伯父だ。一緒に暮らそう」
「E、ひょっとしたら、君は僕の息子かもしれない」
と手を差し伸べるも、Eは突っぱねました。
「僕がこの国の王になる。
次に会ったら伯父だろうと、父だろうと、
あんたたちを倒すからな」
CとDは諦めて、Eとその場で別れました。
后のBは国王のAが死んだことを知り、継子のEに
「Jを探しに行くわ・・・」
とつぶやいて、国を出て行ってしまいました。
残された幼児のFとGを、
Eは「弟たちよ、僕のそばにいて」と抱き寄せます。
FとGも、Eを本当の兄と思って慕い、
Aの残した国を3人で盛り立てていくのでした。
荒れ果てた自国に戻ったCとD。
生き残っていた国民たちは散り散りとなり、
もはや国としての機能はなくなっていました。
王Cの親友Dは、その場で剣を捨てました。
「戦争には勝ったかもしれないよな、・・・C。
けれど、もうここには何もないじゃないか。
好戦的な君には、もうついていけない」
鎧も何もかも外したDは、自慢の竪琴だけを持ち、
吟遊詩人として生きる、と、Cに背を向けました。
「D、行くな。私を一人にしないでくれ」
「なら、君も剣を今ここで捨ててくれ」
「・・・できない・・・」
「そうか。君が戦を捨てたら、また会おう」
そう言うと、Dは戦の哀れを歌いながら去っていきました。
たった一人になった王のCはその場でしゃがむと、
足元の砂をすくい取りました。
「国も妹も親友も失った。
Dの言う通り、残ったのはただの焦土だけだ。
勝つことが正義のはずなのに、
Aに勝ったはずなのに、
なぜこんなにも虚しいのだろう・・・」
Cの手のひらから、握りしめた砂が
さらさらと零れ落ちていきます。
まるで、自分の居場所そのものが崩れていくかのように。
「・・・そこのお方」
背後から静かに声がして、Cははっと振り向きました。
そこには、一人の高僧が立っていました。
「先ほどから見ておった。
もし行き場を失っているのならば、
騙されたと思って、わしと修行をせぬか。
心を満たす境地に至れるやもしれぬぞ」
「・・・そんな場所がこの世にあるのか?」
苦笑するCに、高僧は静かに言いました。
「この世にではない。まずは、心に作るんじゃよ。
イメージしてみるがよい」
「心に・・・?」
Cは静かに目を閉じ、
焦土になる前の国の姿を、ひとつひとつ心に描きました。
緑の草原が広がり、そよぐ風に花々が揺れる。
小川のせせらぎ、子どもたちの笑い声、
竪琴の調べが遠くから聞こえる。
失った国も、妹も、親友も、
全てが再び息を吹き返すような、柔らかな光景。
ーーああ、私はこのような世界を望んでいるのだ。
誰もが戦わなくても生きられる、そんな場所をーー
Cが再び目を開いたその瞳には、
迷いのない光が宿っていました。
「・・・師匠、修行の道へお導き下さい」
「うむ」
Cは、心の中に緑の大地を根付かせ、育むことを誓い、
高僧の後に従って山奥の修行の場へと旅立ちました。
ending music
Viva La Vida - Coldplay
********
上記の過去生を経て、
「百輪村物語」が1章から始まるのです。
また、この過去生から
Cがどうなったか、という内容だけを、
手っ取り早く知りたい方はこちらをどうぞ。
↓
前世の話はこれで終わりです。
次回より、百輪村の現在に戻ります。
