小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
E(村長&小学校教諭)栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)  加恵  カーラ
R(EとKの息子)   陸 ライアン(ジュニア)
 
U(バーテンダー) 梅吉  ウニー
D(大工)     大吾  デイビッド
X(バーの常連)  翠 ヒルダ(すいちゃん)

 

すいちゃんの初登場の話はこちらです。

(読まなくても大丈夫です)

 

 

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない小石(5)

 
 
また水曜日の夜になり、Eがバーに入ります。
「いらっしゃいませ、村長」
どこかしら緊張した面持ちのUです。
 
「やあ、U。あれ?髪型、変えたんだね」
「Kさんがオススメしてくれたんです」
「すごくカッコいいじゃないか。似合うよ」
「ありがとうございます。ご注文は?」
「今日は、マタドールで」(*)
「かしこまりました」
 
*マタドール(闘牛士の意)
 :テキーラ&パイナップル&ライムの
  甘酸っぱい黄色いカクテルです)
 
そこへ、すいちゃんことXが店に入ってきました。
カウンターにEが座っているのを見て、Xは声を上げました。
 
「あっ、こ、こんばんは、村長さん」
「ああ、すいちゃんさん、お会いしたかったんですよ」
「え?嬉しい!隣に座っていいですか?」
「もちろん、どうぞ」
 
XはいそいそとEの横に座り、肩に力の入った状態で
背筋を伸ばしました。
こころなしかXの化粧がいつもより入念で、
バーテンダーのUはちょっとハラハラしました。
 
「すいちゃんさん、
 あなたの教えてくれた年表のおかげで、
 頭の中の小石が取れましたよ。
 今とてもすっきりしています。
 夜もよく眠れるようになりました。
 ありがとうございます」
Eが明るい顔で言うので、Xはドキドキしました。
 
「そ、そうなんですか?それは本当に良かったです」
「お礼に一杯おごりますよ。何がいいですか?」
「じゃあ、じゃあ、村長さんと同じ物を・・・」
「U、すいちゃんさんにも、マタドールをお願いします」
「はい」
 
その頃には、少しずつ『夜手帳の会』の皆が集まってきて、
それぞれの席に座ると、自分の手帳を書き始めます。
Uは、客席を回って注文を受け、少し忙しくなりました。
 
EとXは、同じグラスをカチンと合わせて、
少しずつ飲みながら手帳の話をしました。
 
「・・・小学生の頃から手帳を?すごいですね」
「ええ、書くことと文具が大好きで、気がついたら
 ここまで来ちゃいました。何十冊もありますよ」
「そうですか。本当にお好きなんですね。
 うちの生徒にも書き方を教えてあげたいです」
 
Xは、手帳をほめてもらい、有頂天になりました。
 
「子どもの頃の手帳、たくさんお見せしたいです。
 あの、なんなら、家に来てもらっても構いません。 
 いくらでも参考にして欲しいっていうか・・・」
 
小耳にはさんだUは、ビクッとしました。
(す、すいちゃん、なんて大胆なんだ・・・)
 
Eは少し目を丸くしてXを見たあと、微笑みました。
 
「・・・いえ、私にではなく、子どもたちに授業で直接
 レクチャーしてもらえます?
 もちろん、すいちゃんさんのご都合にもよりますが」
 
「あ、えっと、・・・平日の授業はちょっと無理です。
 あの、その、・・・そんな大きな話じゃなくて、
 私が村長さんにお伝えして、
 それを授業で生かしてもらえたら嬉しいなって・・・」
 
「なるほど。それもいいですね。
 では来週の水曜、またここでコツなどを教えてください。
 私も白い手帳を用意して、学ばせてもらいますから」
 
「あ、はい・・・」
 
「お礼が言いたくてお邪魔しました。
 あなたの貴重な手帳時間を奪ってはいけないので、
 今日はこの辺で失礼しますね」
 
Xに微笑んだ後、Eは自分のグラスを飲み終え、
「U、ご馳走様」と言って、店を出て行きました。
 
「はあ・・・村長さん、すてき・・・」
Xはため息とともにつぶやき、手帳に予定を書き始めます。
 
Uは、カウンターの奥からそっと小声で言いました。
 
「す、すいちゃん・・・。
 うちの村長、超がつく愛妻家で有名なんですよ。
 奥さん、すごくかわいくて美人だし・・・
 村の女性はみんな、泣いて諦めてるんですよ」
 
UはXに諦めてもらおうと、少し話を盛りました。
 
「え、そうなんですか。うん、・・・そうですよね。
 なんか私、石ころみたいに普通に見られてたし。
 あーあ、脈無しか~」
 
Xはペンを置き、残りのマタドールを飲みました。
そして、ふっとUを見て、
「あら?Uさん、印象変わりました?」
と首をかしげます。
 
Uは(今、気づいたんかーい!オレも石ころかーい!)
と心で叫びつつ、
「ええ。髪型、変えました」と苦笑いしました。

 

 

 

 

ending music 

 

YESTERDAY ONCE MORE - Carpenters