小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

【今回の登場人物たち】
F(Dの弟子)      文也  フランク
D(大工・親方)    大吾  デイビッド
G(Dの弟子)       弦   ジョージ
M(ダズンの元ヘッド)   正道  マックス
ダズン(Dの見習い集団) ←グループ名です
Q(O国人・建築業)        クエスト
 
E(村長&バーテンダー)  栄一  エデン
U(バーテンダー見習い)  梅吉 ウニー
 
A(靴屋・ボス)      悪久太  アーク
B(Aの妻)        若葉   バーバラ

 

今回の話は、「第28章 見えない才能」のこぼれ話です。

 

「第28章」は、FとGが、O国へ渡航するのですが、

その渡航直前の準備の話です。

 

いちおう第28章を貼っておきますね。

(が、読まなくても、たぶん大丈夫です)

 

 

 

 

 

では、今回のお話をどうぞ。↓

 

 

見えない再会

 

 

  

 

おいらは、F。

百輪村で、大工の修業をして4年。

大工はだいたい5年くらいで一人前になるそう。

 

ずっと親方のDさんと弟分のGの3人で働いてたけど、

途中でMが率いるダズンたちが仲間になった。

賑やかになって、毎日がとても楽しい。

 

そんな時に、O国からQさんがやってきて、

親方と話し合いをした。

Qさんは有能な大工を求めていた。

おいらは、親方が

海外へ行ってしまうんだろうかと、焦った。

 

でも、親方は辞退し、そんな条件の良い話を、

おいらとGに持ち掛けてきた。

 

話し合いの結果、親方は残ってダズンたちの育成をし、

おいらとGの2人がO国へ行くことになった。

おいらたちは、新しい場所で自分の腕を試したかった。

 

親方がみんなに経緯を説明したら、

ダズンのみんなは落ち込んでいた。

 

特に、おいらたちの前で、Mがめちゃくちゃ泣いた。

「もっと二人と仲良くなりたかったのに。

 FもGさんも遠くへ行ってしまうなんて。

 ・・・正直、ダズンたちと別れるより、きついです」と。

 

おいらたち3人はすごく仲良くなってたから、

Mの気持ちは痛いほどわかる。

もらい泣きしそうになった。

 

「M。仲間の門出なんだから、

 気持ちよく送り出してやろうな」

とMの肩を軽くたたいた親方はおいらたちに向き直って

「後のことは心配するな」って、微笑んでた。

 

しばらくして落ち着いた感じになったMが、

目を真っ赤に腫らせながら、言う。

「こちらのことは手紙に書きますから、

 Fもどうかお返事を下さい」

「うん、もちろんすよ」

でも実を言うと、筆不精のおいらは

書けるかどうか、ちょっと自信がなかった。

 

そうしたら、横にいたGが胸をたたいた。

「安心してM。

 僕が先輩に定期的にフォローを入れますから」

しっかり者のGに任せれば、安心だ。

Mもおいらもほっとした。

 

 

 

  2

 

それからは、渡航の準備で大忙しになった。

パスポートの申請も必要で、役所にGと行った。

 

「先輩、あとは戸籍謄本か抄本がいるようですよ」

色々と教えてくれるGは、ホント、頼りになる。

おいらには謄本と抄本の区別がつかないけど、

まあ色々詳しいという謄本にするか、と、適当に頼んで。

 

窓口でもらったその用紙をざっと眺めて・・・

おいらの目は、釘付けになった。

 

「家族が全員載ってて、これ面白いですね、先輩」

自分のものを見たGがおいらに笑いかけてくる。

 

おいらは、もらった用紙をすぐに封筒に入れて、

「そうっすね。G、ちょっとこれ、コピーしてくるっす。

 ここで待ってて」

と、役所の有料コピー機の方に走った。

 

ひとりで、もう一度そっと封筒から出して、

まじまじと見た。

 

おいらは、ずっと、母一人子一人で暮らしてきた。

母さんに父さんのことを聞いても、

「あなたが生まれる前にいなくなったの。もう聞かないで」

と絶対に教えてくれなかった。

だから、まったく知らなかったんだ、父さんのこと。

 

でも、この謄本には、父さんの名前が載ってた。

(・・・A。・・・って、あのA?)

 

「先輩、早くしないと、窓口しまっちゃいますよー」

「あ、わかったっす」

遠くでGがせかす。はやくコピーしないと。

ドキドキしながら、それを1部焼いた。

 

またGのところに戻ったおいらは、

もうその後Gが何を言っているのか聞こえなくなった。

だって、Aのことで頭がいっぱいになってしまったから。
あのAがおいらの父さんだなんて――
・・・まったく、信じられなかったから。

 

 

Aは、うちの村でかつて、ボスと呼ばれていた男だ。

子どもは傍に行ってはいけない、そんな風に言われてた。

遠くからでも見かけたら

ダッシュで逃げなくてはいけなかった。

まるで、鬼扱いだった。でも・・・。

 

「じゃあ、これで、旅券発給申請書と、住民票と、

 戸籍謄本と写真、保険証のうつし、全部そろいましたね。

 あとは、これをパスポート申請の窓口に・・・

 どうしたんですか?

 さっきから黙り込んでますけど。具合悪いんですか?」

とGが心配そうに言うので、

ちょっと思い切って、言ってみた。

 

「うん、・・・あのさあ、

 うちの村にAっていたっすよね?」

「え?・・・ああ、5年くらい前に事故で死んだ人?

 よく知らないけど、村のみんなが

 『Aが死んでくれてよかった』とかなんとか、

 たまに言ってますよね」

「だよね。みんなに嫌われてるっすよね」

 

Gは小首をかしげて、噂話を思い出している。

「なんか、他の村からみかじめ料なんかを取ってたとか、

 やたらとみんなに暴力をふるってたとか、

 ひどいことしてたらしいですよね」

「うん。おいらも、そういう話しか聞いたことがないし」

 

目が泳ぎそうなおいらをGが覗き込んでくる。

「で、そのAがどうかしたんですか?」

「・・・あ、ううん。さっき、人とすれ違った時に、

 似たような名前が偶然聞こえてきてさ。

 それで思い出しただけっす」

「ふうん?先輩、さっきから、ぼんやりしてません?

 僕が書類持ってあげますから、貸してください」

「あ、いや、いいっすよ。ちゃんと持つから」

 

Gには渡せない。見せられない。

おいらは、手元の封筒をぎゅっと握って離さなかった。

 

 

 

  3

 

シティで無事に申請を終え、村に戻って後輩のGと別れて、

おいらは家に戻った。

胸ポケットには、戸籍謄本のコピーを

小さく折りたたんで入れてある。

 

母さんは、手作りアクセサリーを作る仕事をしていて、

帰ってきたおいらに、微笑んで迎えてくれた。

 

「おかえり、F。申請は無事に済んだ?」

「うん。出来上がるまで、2週間くらいかかるって」

「そう。・・・パスポートが出来たら、

 すぐにO国へ行ってしまうんでしょう?

 なんだか突然で、まだ心の整理もつかない状態よ。

 あなたがこの家を出て行くなんて、

 とても寂しいけど・・・

 でも、あなたの勉強のためだものね」

「うん、ごめんす。母さんを一人にしてしまって」

「あなたは本当に優しいわね。・・・お茶入れるわね」

 

母さんは手元の仕事を中断して、台所に向かっていく。

おいらは、リビングのソファーに座り、

ポケットから謄本のコピーを出してそっと広げ、

もう一度こっそり眺めた。

やっぱり、父親の欄にAと記載されている。

 

「何を見ているの?書類?」

母さんは、マグカップをふたつ持って戻ってきた。

おいらは慌てて、紙を二つ折りにし見えないようにする。

おいらの好きなアップルティーを

テーブルに置いてくれて、向かい合わせに座る。

 

いつものおいらなら、

「母さん、これ、見てくれっす」

とすぐに手渡したかもしれない。

でも、これは、・・・なんだか、爆弾な気もする。

母さんを追い詰めてしまいそうだ。

 

これまでにも、何回も父さんのことを聞いた。けれど、

「お願いよ、F。やめて。

 家でも外でも、その話は無しなの。いいわね?」

と、念を押された。

母さんは、声を震わせ、目に一杯涙をためてた。

だからそのうち、質問をするのをやめてしまったんだ。

 

「・・・ただの手続きの紙。なんでもないっすよ」

おいらは、書類を小さくたたんで、

またポケットにしまった。

 

そして、アップルティーのマグを手に取る。

すでに砂糖は入っている。

この砂糖と同じくらい、

「父さんのことは聞いてはいけない」が

”当たり前”になってしまっている。

 

「美味しい?」

「うん。あったまるよ」

「良かった。あとで、あなたに

 新作のデザインを見てもらっていい?

 Fのセンスって本当に素敵だから、

 あなたにGOサインを出してもらえると、

 私もほっとするのよ」

「もちろん見るけど、母さん、

 もうおいらには聞けなくなるよ?

 もっと自信を持ってくれっす。

 母さんの作るアクセサリーは世界一っすよ」

「ふふ、ありがとう」

 

おいらたち母子は、二人でずっと支え合って生きてきた。

そこに父さんは、Aさんは、いらないのかもしれない。

・・・でも、でも、本当はもっと知りたい。

本当に血のつながった父さんなのか、

どんな人だったのか、気になるんだ。

 

村長のEさんに聞いてみようか。

あの人は昔、Aさんの右腕だった、っていう噂だし。

だったら、よく見ていたはずだ。

 

ただ、なんと切り出せばいいのか、わからない。

この村を去るまで、あと2週間。

 

その間に、なんとか・・・。

 

 

 

  4

 

翌日の仕事あがりに、親方の所へ行った。

 

「あの、親方、明日休んでもいいですか?」

「ああ、いいよ。・・・どうした?元気がなさそうだが」

「えっと、ちょっと村長に聞きたいことがあって」

「そうなのか。オレにはできない話か?」

「この村の・・・昔の話っす。親方がいなかった頃の」

「ああ、それじゃあ、オレはわからねえな。

 うん、わかった。明日、Eに聞いておいで」

「はいっす。じゃあ、今日は失礼します」

「おう、お疲れさん」

 

本当は今夜、バーに行ってすぐ聞きに行きたい。

でも、夜は、親方がいつもバーにいる。

誰もいない開店前に、二人きりで村長に話を聞きたい。

 

・・・はあ、おいら、何をこんなに

必死になっているんだろう。

ただ、Aという人物の話を聞きに行くだけだ・・・

ただ、それだけ・・・。

でも、ちょっとでも村長に疑念を抱かせたりして、

何も教えてもらえなかったら、

おいらの打つ手はもうないから・・・

上手に聞き出したい。

 

 

翌日の昼過ぎに、

「ちょっと村長に今後の話をしてくるっす」

と声をかけると母さんは、

「いってらっしゃい、F」と微笑み、

すぐアクセサリー作りに没頭し始めた。

おいらは、小走りでカフェバーに向かった。

 

ドアに、クローズドの札が下がっている。

それでも、ドアを開けた。

中には、バーテンダーの服装をした村長がいる。

その横には、なんと見習いのUさんがいた。

 

あっ、しまった。Uさん・・・。

ダメだ。もう聞けない。

村の人の誰にも聞かれたくないのに。

 

おいらに気づいた村長が笑顔になる。

「F、いらっしゃい。Dから聞いているよ。

 私に聞きたいことがあるんだって?」

「あ、え・・・そうなんですけど・・・」

おいらは、ちらっとUさんを見た。

 

村長はすぐに察してくれたようだった。

「U、悪いが、2人にしてもらえるかな?

 準備は私がしておくから、開店前に来てくれるかい?」

 

「あ、はい、わかりました。じゃあ、お願いしますね」

Uさんは、すんなりと店を出て行った。

 

良かった。これで、村長と二人きりだ。

 

 

 

  5

 

「アップルティー、でいいかな?」

 

「はいっす」

「ホットとアイス、どっちがいい?」

「ホットで」

「わかった。少し待ってね」

 

バーテンダーでもある村長は、

この村の全員の好みを知っている。

ホスピタリティのキングというあだ名は伊達じゃない。

 

村長はカウンターの奥に入って、

お湯を沸かし始めた。おいらは、カウンター席に座る。

「F、渡航の準備は進んでるかい?楽しみだね」

「はいっす。今ちょっとドキドキしてるっす」

・・・今は、別のドキドキだけど。

 

「新しい場所に行くのは、誰でも緊張するよね。

 でもきっと、Fならうまくやれるよ。

 君は、明るくて場を和ませるのが得意だから」

「いやあ、そんな。

 ただ、人とぶつかるのが嫌いなだけっす」

「一緒に行くGはまっすぐだから

 衝突しやすいところがあるけど、

 君がうまくサポートするから大丈夫だね」

「いえ、おいらが、Gにサポートされっぱなしっす。

 ぼーっとしてるから」

「ふふふ。いいコンビだね」

 

村長は、アップルティーを作って出してくれた。

スティックシュガーを使って、自分で甘くする。

かきまぜたスプーンを抜いて、ティーカップから一口飲む。

 

なぜだろうか。村長の作るアップルティーは、

家で飲むのより、格調が高い感じがする。

 

「・・・で?」

村長は、にっこりとおいらの顔を見る。

 

「・・・。えっと、あの、Aさんのことで」

「A?」

 

村長の顔がちょっと曇る。あまり話したくなさそう。

「その、あの、人柄について、ちょっと考えてて・・・。

 例えば、Gって、真面目でしっかりしてるんだけど、

 そこを嫌がる人もいるじゃないっすか。

 それとおんなじで、Aさんて、悪い評判しかないけど、

 でも、ひょっとしたら、

 良いところもあるんじゃないかなって。

 ・・・こんなこと考えるの、変すかね?」

 

「いや、変じゃないよ。

 誰にでも二面性はあると思うし、

 欠点が長所ということもあるし。

 面白いところに目をつけたね。

 でも、よりによってAが出てくるとは驚きだけど」

 

「はあ・・・参考になればって思って」

おいらは、頭をポリポリとかいた。

 

「そうだな・・・Aのいいところ・・・か」

村長は、記憶を手繰るように、遠い目をした。

 

おいらは、アップルティーを飲みながら、

じっくりと待ってみる。

しばらくして、村長は、ゆっくり語り出した。

 

「Aは、気骨のある人だったよ。気迫もあった。

 誰も寄せつけないオーラを持っていた。

 たくさんの手下を従えていたが、

 最終的には自分自身だけを

 よりどころにしていたところがあった」

「へー」

おいらは、つい前のめりになって聞いてしまう。

 

「それから、Aは奥さんのBをとても大事に思ってたよ。

 手放したくないようだった」

「・・・Bさんだけっすか?愛人が何人もいたとか、

 そういうのは?」

「愛人?いや、Bにぞっこんだったよ」

「・・・ふうん。そうっすか・・・一途っすね」

 

じゃあ、母さんと、どういう間柄だったんだろう?

密かに隠れてつきあっていたのかな?

母さん、ふられたのかな?

だから、おいらに言えなかったのかも。

 

あんなに村長に色々聞こうと思ってたはずなんだけど、

もう質問が浮かばなくなってしまった。

 

 

 

  

 

「・・・F、何か、悩みがあるのかい?

 差し支えがなければ、聞こうか?」

村長のEさんが、穏やかに言ってくれた。

 

おいらは、ポケットから

折りたたんだ謄本をカウンターに出し、

すっと村長に押し出す。

 

「見ていい?」

おいらは頷く。

村長は開いて、中を確認した。

ハッとした顔をして、また折りたたんで、戻してくれた。

 

「そうか。わかった。誰にも言わないよ」

「・・・」

「今ので、ひとつ、思い出したことがある」

村長は、腕組みをして、窓の外に目をやった。

 

「ボスのAは・・・一年に一回くらい、

 村の子どもの一人に声をかけていた。

 あれは、君だったんだね?」

「・・・」

「私はたいていAのそばにいたんだが、

 その時は、少し遠いところで私を待たせ、

 Aだけがその子どもに近づいていった。

 そして、何かを話した後、

 すぐに私の所に戻って来た」

「・・・」

「『その子の年齢を聞いただけだ』って言ってた」

 

「・・・おいらっす、それ。

 本当に、毎年、年齢を聞かれました」

 

「そうか。不思議だな、とは思った。

 村の子だったら、Aを見たらみんな逃げるはずなのに、

 一人だけ、留まる子がいたから。

 その頃は、私は村のことに関心がなくて、

 子どもが誰かなんて、気にしてなくてごめんよ。

 ずっと知ってて、逃げなかったのかい?」

 

「いいえ、わかってませんでした。

 毎回、『坊主、何才だ』って聞かれるから、

 そのときの年齢を言っただけっす。

 いつも優しい声で尋ねられたから、

 この人は怖くない、

 なんでみんな逃げるんだろう、って不思議だったっす」

 

「じゃあ、Aだけは、わかってたんだね、君を。

 Aは、私の所に戻ってきて、

 一度だけ、こんなことを言ってたよ。

 

『子どもって、あんなにくったくなく笑うんだな。

 育て方がうまいんだろうな。 

 あんなふうに自分も育てられてたら・・・って

 思っちまう。

 まあ、どうでもいいんだ、そんなこと 』って・・・。

その時だけは、Aは険しい顔つきではなかったよ」

 

「そうっすか」

 

おいらは、声をかけてもらった時のことを思い出していた。

すごく大柄で、声が太くて、のしのし歩いてた。

 

あれは、父さんだったんだ。

おいら、父さんと・・・話してたんだ。
知らなかった。気づかなかった。

でも、あの声・・・あの姿・・・。
あれが、父さん・・・。

 

もっと、話をしたかったな・・・。

 

「村長、なんか、心が落ち着いたっす」

「そうか。お役に立てて、なによりだよ」

 

おいらは、アップルティーを飲み干して立ち上がった。

「ごちそうさまっす」

 

「・・・F、渡航先でも元気でやるんだよ。

 応援してるからね」

「はいっす。あの、最後にひとつだけ・・・

 Aさんの・・・父さんの名セリフって、あります?」

 

「名セリフ?

 そうだな。・・・“もがくのも悪くねぇよ”。――

 って言ってたよ」

 

「カッコいいっすね。・・・ありがとうございました」

おいらは、お礼を言って店を出た。
十分すぎるほどの話をもらえた。
名セリフを、頭の中で、あの声音に変換する。
あれは、父さんの声だ。

 

カフェバーから帰ってきたおいらに、

母さんがちょっと不思議そうな顔をした。

「どうしたの、F? とっても幸せそうね」

「うん。

 なんか・・・生まれてきてよかったな~って」

「ふふっ、突然どうしたの?

 もちろんよ。あなたは、私の宝物よ」

 

おいらは、微笑んでいる母さんにハグをした。

「ここまで育ててくれて、どうもありがとう。

 母さん、大好き」

「私もよ、F。ありがとう。

 ――ずっと独りぼっちだった私のそばにいてくれて」

「・・・おいらも、ひとりじゃないって、わかったよ」

 

 

後日、O国に向かう飛行機の中で、

横に座っているGが一冊の小さな手帳をくれた。

 

「先輩、大事なことは僕みたいに

 いつもメモしたほうがいいですよ。

 この手帳をあげますから、

 まずは1ページ目に書いてください。

『毎月、Mに手紙を書く』って」

 

「あ、忘れてた!大事なことなのに!」

「まったくもう。またMが泣きますよ?」

とGが笑う。

 

Mの泣き顔を思い出して苦笑しながら、

おいらは、Gに言われたとおりにした後、

さらに手帳の最初の見開きに、

『もがくのも悪くねぇよ』と書いた。

 

Gがきょとんとする。

「ん?なんですか?それ」

「おいらの大事な人の遺言っすよ」

 

手帳を胸ポケットに入れて、

上からそっと手でたたく。

 

ふと見ると、飛行機の窓の外は、

抜けるような青空だった。

 

 

 

 

ending music

 

What a wonderful world - Louis Armstrong