登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
D(大工) 大吾 デイビッドF(Dの弟子) 文也 フランクG(Dの弟子) 弦 ジョージM(ダズンのヘッド) 正道 マックスダズン(不良グループ→Dの見習い集団)
本編でMとダズンが初登場した話はこちらです ↓
今回の話は、「第16章 見えない才能」の
続編ですが、本編を読まなくても大丈夫ですよ。
では、どうぞ。↓
見えない指示
1
これは、Mとダズンが、
Dの見習いになってすぐのお話です。
草切村の不良グループ「ダズン」のメンバーたちは、
百輪村の理容室で、そろって頭を丸めました。
それは、「素行不良の生活から足を洗う」という
意思表示でした。
全員が居並び、代表して元ヘッドのMが
「全員、頭を丸めました。
大工見習としてこれから頑張ります。
心機一転よろしくお願いします」
と、親方のDと、
その弟子であるFとGの前で、挨拶をしました。
ダズンのメンバーたちの坊主頭を見て、Dは、
「おお、思い切ったなあ。よろしくな」と言い、
「みんな、似合うっすね~」
と、Fもニコニコしています。
その横で、Gだけが暗い顔をしていました。
(不良グループだったダズンが、
まさか全員、大工見習いになるなんて・・・。
怖い。年上ばっかりだし、空気も違う。
自分はこの中で、どうすればいいんだろう)
そんなGの気持ちも知らず、話は進みます。
「じゃあF、大工のイロハを教えてあげてくれ」
「はいっす!」
ダズンたちがDたちのグループに入ったのは、
「やることがないなら、大工の仕事を一緒にやらない?
おいらが教えるっすよ」とFが、声掛けしたためです。
最初から面倒を見るつもりだったFは、
彼らに説明を始めました。
「大工道具は、のみと鉋とのこぎりとーー」
ダズンたちは、関心を持って耳を傾けます。
「ーー少しずつ覚えればいいし、
いつでも何でも質問待ってるっすよ」
「はいっ!」
元ヘッドのMは、Fの懇切丁寧な話しぶりを見て、
(Fって、気さくでいいやつだなあ。教え方もうまいし。
もっとFともGとも仲良くしたいな)
と、考えていました。
Fは「仲間が増えて、良かったっすね」
とGに微笑みますが、Gは「はい」と言いつつ、
固い表情をしていました。
ある日の朝礼で、Dが言いました。
「今日は、××村で、屋根と天井をやるぞ。
30分でここを出るから、支度を頼むぞ」
と言い、設計図を再チェックし始めました。
このような簡潔な指示でもFとGはわかっているので、
すぐさま行動に移せますが、
Mを含めたダズンたちは、ぽかんとしています。
Mは、指示を終えたDの様子を見て、考えました。
(え?指示はそれだけ?まいったなあ。
Fは何も言ってこないし、Gも黙ってるし・・・。
メンバーもこれ以上動けない。
そうか、これは、親方が俺に”自分で考えろ”と
暗黙で伝えてるんだろうな。了解した)
Mは、仲間のダズンたちに、指示を出しました。
「屋根をやる、っていうのは、・・・修理だ。
だから、釘とトンカチを用意しておけよ」
それを聞いたGが、びっくりして振り返りました。
(は?大工をなめてんの?
それだけのはず、ないでしょ。
・・・って言いたい。
でも、Mもダズンも怖いしなあ・・・
言えないよなあ・・・。
もう。勝手に指示を出さないでよ、M!!)
Mは、Gが無言で自分をにらんでいるので、焦りました。
(え?にらまれてる?え?なんかミスった?)
Gは、道具をそろえる作業を中断して、
親方のDのところへ行きました。
「親方、”屋根をやる”だけじゃ指示が少ないですよ」
Dは、設計図から目を上げて、にっこりしました。
「ん?Gはわかっているんだろう?教えてあげて」
Dは、弟子のFたちと新参者のMたちの距離が近くなるよう、
あえて自分からの指示を少なめにし、
彼らの会話を増やしてあげようとしていました。
2
Gは、親方のDに反論しました。
「嫌です。ダズンたちが怖いから・・・
親方が指示してください」
「え?俺が全部?」とDは驚いたのですが、
Gの気持ちが変わらなそうなのを見て、
「・・・そうか。わかったよ、G」と承諾。
Dの横で聞いていたFも、サポートに回りました。
「G、不安なんすね・・・。
親方、おいらが間に入るっすよ」
Dは、Mの所に行って、
「M、すまんな。今日必要な道具は、
〇〇と××と△△だ」と言いました。
Mはすぐさまメモを取りました。
「ありがとうございます。さっそく集めます」
「頼んだよ。あとは、Fに聞いてくれ。
俺は、手順も考えたいから」とDは去りました。
さっそくMはFに尋ねます。
「Fさん、〇〇はどこにありますか?」
「ああ、あの棚っす。ここに入ってるっす」
「わかりました。では、××は・・・」
と、仲よさそうです。
それを見ていたGは、首を傾げました。
(あれ?□□は・・・?まあ、いいか)
親方が指示をしていなかったのを不審に思いつつ、
Gは、FとMに言いませんでした。
現場に着いた全員が作業を開始した時、ダズンの
みんなが□□を持っていないことにDは気づきました。
「あ、すまん。俺が指示を忘れた。
基本のやつだったからな」
と、Dの方が、ダズンに謝りました。
Fが「Gが持ってるんじゃないですか?」と言うと、
まさにその通り。
Gだけが自分の工具箱から□□を取り出しました。
ダズンたちは、「おお、すげえ」と声を上げますが、
当のGは、決まりの悪い顔をしました。
(僕は知ってた、□□が必要だってこと。
でも、言えなかった。
なのに僕だけ持ってて、目立っちゃって・・・
”あいつだけ正解してる”って思われたらどうしよう。
ああ、なんかイライラする・・・)と、
勝手な思い込みで気分を悪くしていました。
また別の日、Dが指示を出しました。
「今日は△△村で、床下をやるぞ~。F、頼むな」
「はいっす。えっと、M、今日必要なのは~」
「はい。メモします」
書き終えたMは、ダズンのメンバーに
「~が10個で、~が20本だ。
手分けして用意しよう」と声掛けしています。
Gは、その様子を見て、モヤモヤがつのりました。
(なんか僕だけハブられてる気分・・・)
Gの頭の中に、図式が浮かびます。
親方からF先輩へ、F先輩からMへ、Mからダズンへ。
自分は、その矢印に入っていないのです。
Gは、Dに言いました。
「親方、今日は早退させてください。
あの、腹痛で、具合が悪いんです」
「え?大丈夫か?
・・・無理するな。上がっていいぞ、G」
今日の段取りをしていたFもそれを聞いて、
「お大事にね、G」と声を掛けました。
Gは、DとFに「失礼します」
と言って、背中を向けました。
Gが訴えた腹痛は、仮病でした。
けれど本当に痛んでいたのは、心の奥の方でした。
3
親方たちから離れて、自宅へと足を向けたとき、
Gの目から涙がポロリとこぼれました。
(僕は、もう用済みなんだ。
・・・道具をそろえるのが、僕の居場所だったのに。
その仕事を、Mとダズンに取られてしまった・・・
このまま、いらなくなるんだ)
うつむきながら歩きはじめたGから
鼻をすする音が聞こえたので、
Fが驚いて近づきました。
「G?大丈夫?家まで送ろうか?そんなに痛い?」
Gはもう涙を抑えきれず、ひーんと泣き出し、
「大丈夫れす!放っておいてくらさい!」
と強がりを言いながら、一人で家に帰っていきました。
その後ろ姿を心配そうに見るFとD。
「様子が変だな。F、あとでGのお見舞いを頼む。
ひどいようなら、連絡をくれ」
「了解っす」
Gのいない中で、現場に行き、作業を始めたDたちです。
Dは、ダズンを周りに集めて、説明を始めました。
「この工程では・・・養生で板を使うぞ。
ここには、特殊な釘が必要で・・・」
とそこまで言ってから、後ろを振り返りました。
「おーい、G。8番の釘を・・・。あ、休みか」
いつもなら、Gがすべてを用意しているはずでした。
Mが気を利かせて、
「俺が作業場に取りに行きます。8番の釘ですね?」
と手を挙げると、Dは、
「すまんな、M。ふう、さっきから作業が進まん。
Gがいないと、不便だなあ」と頭をかきました。
Fも苦笑します。
「ずっとGに頼りっぱなしだったから、焦るっすね」
Mは作業場に向かいながら、
腹痛で早退したGの顔を思い浮かべていました。
夕方。Gの家に、Fがお見舞いに行きました。
Gの母親が出てきて、応対します。
「あら、わざわざありがとう、F。
どうぞ上がって頂戴。Gは元気よ」
Fは持参した菓子の箱を渡して、
「おじゃまします」と上がらせてもらいました。
Gの個室のドアをたたいて、Fが中に入ります。
「G、具合はどう?」
布団をかぶっているGの声がします。
「・・・良くないです!明日も休みます!」
Fは(声は元気そうだな)と思いつつ、
盛り上がった布団に話しかけました。
「G。今日、現場で何度も”あれどこ?”って
探しちゃったんすよ。
Gがいつもサッと準備してくれてたから、
助かってたんだなーって。
明日は出てきて欲しいな・・・
無理ならしょうがないけど・・・」
それを聞いて、布団がもぞもぞ動きました。
「・・・僕がいなくて、困ったんですか?」
「うん。親方も、おいらも、身に染みたっす。
Gの細かいフォローってすごいっすね」
「・・・」
「今夜はゆっくり休むっすよ。じゃあね、G」
Fが帰った後、毛布からそっと顔を出したGの顔は、
どこか安心したように、少し明るくなっていました。
4
翌日は、いつも通りGは出勤しました。
朝礼で、親方のDがまた指示を出します。
「今日は、内壁と外壁の依頼だ。
みんな、よろしく頼むな。
・・・G、もう大丈夫か?頼りにしてるぞ」
G「はい。まかせてください」
と言って、Gが一人で道具を集め出します。
そこにMがやってきて、
「Gさん、手伝いますよ」と、横で言うので、
Gは、「うわ、びっくりした」と飛び上がりました。
Mは「Gさん、もっと俺たちを使ってください。
あなたが副リーダーなんですから」と言うので、
Gは首をかしげました
「副リーダー?ダズンの?」
「いえいえ。親方の次が、リーダーのFさんで、
その次が副リーダーのあなたです。
ダズンは、その下ですよ」
「え?僕、Mやダズンより、上ってことなの?
あ、え、・・・でも、なんかM・・・怖くて」
「とって食ったりしないですよ。俺、昨日、
Gさんのこと、すごいなって思ったんですよ」
「え」
「Gさんがいなかったことで、
現場がものすごく混乱してたんです。それを見て、
ああ、Gさんが仕事を回してたんだなって思ったんです」
「なんだろ・・・、そう言ってもらえると、
ちょっと泣ける」
「俺、つり目だから、怖かったですかね?すみません」
「ううん、そうじゃなくて・・・。ありがとう」
Gは、少しだけMの方を見て、照れくさそうに笑い、
Mも静かに笑い返しました。
その後のGは、水を得た魚のように、
Mやダズンたちにビシビシと指示を飛ばしました。
「はい、今日は、これとこれ。
段取り通りにいくよ、頼んだよ!」
Mとダズンたちは、元気よく返事をします。
「はい、副リーダー!」
「そこは片づけといて!それは、こっちに移動!」
「はいっ!」
その様子を見ていたDとFは、ニコニコしました。
「G、張り切ってるな~」
「元気になって良かったっす」
現場は、調子を取り戻しました。
Dが、いつも以上に楽し気に金づちをたたき、
「おー、今日は仕事がはかどるなー」
と、笑います。
その横でFが「Gのおかげっすね」と、
のこぎりで木を切っています。
Mやダズンたちも指示通りにきっちりと仕事をし、
Gは道具のチェックに余念がありません。
作業音と笑い声が、百輪村の空に響きました。
ending music
輪になっておどろう - V6
