シリーズものの小説です。
目次はこちら→ 百輪村物語 目次
登場人物名は、アルファベット表記です。
【今回の登場人物】
E(百輪村の村長&教師) 栄一 エデンK(美容師・Eの妻) 加恵 カーラR(EとKの息子) 陸 ライアン(ジュニア)D(大工) 大吾 デイビッドF(Dの弟子) 文也 フランクG(Dの弟子) 弦 ジョージダズン(Dの見習い集団) ←グループ名ですM(ダズンの元ヘッド) 正道 マックスN(Mの父・草切村の大工) 紀道 ニックQ(O国人・建築家) クエスト
見えない成長
1
「わあ、かわいいっすね~!」
Fが真っ先に声を上げました。
「もう歩いているんですねえ」
Gはそっとかがみ込み、
幼い子の顔を覗き込みます。
4年ぶりに、〇国から百輪村に帰ってきたFとG。
村長Eの息子である
1歳のジュニアを見て、大騒ぎです。
ジュニアの両親であるEとKは、
息子ジュニアの魂の出自がどうであれ、
責任を持って育てることを決意したので、
今は穏やかな日々を大切にしながら
子育てに励んでいます。
「FもGも、立派な大人になりましたね」
と、ジュニアを抱き上げたEが微笑むと、
「4年も〇国に行ってたんで、
あっちで成人したんすよ」
「また村で頑張りますので、よろしくお願いします」
と、2人もにっこりしました。
「こちらこそよろしく」Eは、2人と握手しました。
「〇国はどうでした?」
「海鮮料理が最高だったっすよ~」
「賑やかなカーニバルが1週間続くんです」
「わあ、いいなあ~」「楽しそ~」
親方のDは、彼らが楽しく話をしているのを
目を細めて見ています。
前日の夜、Dの家に
2人がいきなり訪問してきたときは、
夢じゃないかと思ったのですが、
翌朝になり、こうして目の前にいるのを見て、
Dは弟子の帰還の喜びをかみしめるのでした。
おおよそ話し終えたところで、
Dは本日の作業をそれぞれに指示します。
ダズンの12人が持ち場に散らばった後、
残ったFとGが「自分たちはどうしましょうか?」
とDに尋ねます。
「実は、ちょっと困った案件があってな。
急ぎではないという話だったから、
俺もダズンたちも放置してたやつがあるんだ」
「なんです?」
「市の家具店から頼まれたテーブルセットなんだが、
普通とは違うデザインにしてくれ、と言われててな」
(Dたちは、建築だけでなく工芸もします)
「普通とは違う?四角ではないやつっすか?」」
「そうだ。何かいい案はないか?」
「うーん、そうっすね・・・」
Fは、ポケットからメモ帳を取り出して、
その場でイラストを描きました。
「〇国で、こんなやつとかを見たことがあるっす」
Fが描いたのは、ソラマメのさやのような形の、
3つの楕円をゆるやかにつなげたようなテーブル天板です。
「え?こんなのが〇国にあるのか?すごいな」
「他にも色々あったっすよ」
「〇国は、芸術の国と呼ばれてますからね」
「・・・そうか。じゃあ、お前たち2人に
このテーブルセットの案件を任せてもいいか?」
「了解っす」「わかりました」
ほどなくして出来たテーブルセットは、
ソラマメのさやのような天板のテーブルと、
背もたれがソラマメの粒の形をしている椅子で、
まるでメルヘンに出てきそうな家具でした。
Dは、「ほー、こんなの、初めて見たぞ」
と言いながら、椅子の1つに座りました。
座り心地も最高です。
O国という芸術の国に身を置いたおかげで、自然と、
FとGのアートのセンスが発達したようでした。
「・・・〇国へ行かせたのは、大正解だったな」
と、Dは満足気でした。
2
FとGが作ったアート風のテーブルセットを
市の家具店に納品すると、店長は大感激し、
市価の5倍という破格の金額で
買い取ってくれました。
そのテーブルは家具店にしばらく展示されましたが、
10倍の値段でも欲しいという人が何人も出てきて、
取り合いになりました。
家具店から発注がまた来たので、
Dが弟子のFとGに再度頼んだところ、
違うデザインのテーブルセットを制作しました。
それもまた、オークションにかかるほどの
超人気な作品になりました。
こうしてFとGが手掛けた家具は、
家具店側が命名をして
「百輪ブランド家具」
と呼ばれることとなります。
ダズンたち12人が作る家具も、
FとGがほんのわずかな手直しをしただけで
洗練された雰囲気になります。
彼らは、O国から帰国したリーダーたちを
ますます尊敬しました。
FとGの成長についてしばらく考えたDは、
ダズンたちに尋ねました。
「お前たちも、O国で学んでみたいか?」
何人かが、積極的に手を挙げました。
Dは、O国のQに電話を入れました。
「百輪村のDだ。Qさん、久しぶりだな。
長い間、FとGがお世話になった。ありがとう」
「Dさんですか?お久しぶりです。
こちらは、優秀な大工を2人失って、
本当に悲しい気持ちですよ・・・」
「その件なんだが、FとGが、
そちらの国のアート感覚を持ち帰ってきて、
本当にありがたいんだ。
また別の弟子をそちらに送りたいんだが、
受け入れてもらえるだろうか?」
「ええ!?本当ですか?
Dさんのお弟子さんなら、
10人でも20人でも大歓迎しますし、
すぐチケットを送らせていただきます」
こうして、百輪村とO国との留学制度が
正式に始まりました。
今回、O国に行きたいと志願したのは、
Mを含む3人でした。
Dは、彼らにQとの取り決めを話し、
「O国へいつでも行けるぞ」
とGOサインを出しました。
「あの頑固おやじを説得できるだろうか・・・」
と、ダズンのMはちょっと弱気になりましたが、
当たって砕けろ、という気持ちで、
草切村で大工をしている父親のNに
話を持っていくことにしました。
3
大工Dの弟子のMは、
同じく大工をしている父親のNの所へ行きました。
「親父、実は、O国へ留学したいんだ。
ちなみに、お金の心配はいらない。
Dさんがすべて手配してくれたんだ」
「なに?留学だと?
いいかげん、Dさんのところから離れて、
うちの家業を手伝ってもらおうと思ってたのに。
なんで、わざわざ外国なんかへ行くんだ?」
「O国の文化遺産づくりを手伝う仕事なんだ。
それをやることで、
また新たな技術や視野を学べそうなんだ。
・・・頼む親父、行かせてくれ」
「新たな技術なんて必要ないだろ?
Dさんから、十分学んだだろう?
こっちにはこっちの大工の伝統ってもんがある。
なぜそれを引き継いでくれんのか?」
「・・・・」
「俺はな、お前の将来を考えて言ってるんだ。
そろそろこっちの村で落ち着いてくれ、頼む」
「・・・。親父、色々考えてくれてありがたいよ。
・・・でも、俺は、もっと成長したいんだ。
こんな留学の機会はめったにないんだし。
・・・草切村の伝統も、もちろん尊敬してる!
それに加えて、O国の”伝統”も学びたいんだ!!」
「ほう、O国の伝統、か。・・・うーん。
・・・それなら、まあ、いいか」
「ありがとう、親父」
父のNが”伝統”という言葉に弱いと知っていたMの作戦は、
見事に成功しました。
一方Nは、「あの優柔不断だった息子が、
こうまで変わるとは・・・」と思い、
Mの成長を密かに喜ぶのでした。
このようにして、Mを含む3人が、
新たにO国へと飛び立っていきました。
異国の地で働きながら学びます。
他にも渡航を希望する弟子がいれば、
これからもQは受け入れてくれるそうです。
O国のQと百輪村のDたちにとって、
相互補助のつながりが生まれました。
ところでFとGは、
「百輪ブランド家具」という名前で
自分たちが作った家具が持ち上げられても、
あまり実感が湧かないようでした。
4
O国に到着したMたち3人は、
世界遺産を手掛けているQたちに
温かく迎えられました。
どれもが物珍しいものばかりで、
右を向いても左を向いても、
コチダ国とはまったく違う趣のO国です。
ちょっと足を延ばしただけで、
こんなにも違う世界がある・・・。
コチダ国の小さな村から出てみて、
異文化の大洪水に圧倒されます。
世界の広さを実感せざるを得ませんでした。
初めて食べる異国料理に舌鼓を打ったり、
ちょっとした観光にも連れて行ってもらいました。
彼らは、新しい宿舎を用意され、
そこから新しい仕事場に向かいます。
最初は言葉がまったくわからず、
職人同士で身振り手振りでの会話。
時間をかけて、だんだんと
新たな言葉と仕事を覚えていきました。
O国の人たちはとても親切で、
まだ若いMたち3人をとてもかわいがってくれました。
なんでも疑問点を教えてくれます。
曲線の窓枠の制作方法や、
ゆったりとした納期設定、
O国ならではの文様の使い方など。
慣れぬ生活と仕事の戸惑いの中で、彼らは、
「こういうのもありなんだな」と受け入れ、
心の余裕と柔軟さも手に入れました。
また、それでもわからないことは、
百輪村にいるFとGに手紙を書いて、
O国での疑問点やライフハックを質問すると、
すぐさま生活に密着した返事が戻るので、
Mたちはとても助かりました。
そんな風にして現地で暮らすうちに
Mたちは、新たな技術と
O国ならではのアート感覚、色彩感覚を学び、
体の奥にしみこませていきました。
O国の人たちは、
生き方がすでにアートのようでした。
みんながてんでに魂を爆発させ、
「自分はこう!」「私はこんな感じ!」
などと、強い自己主張をします。
それでいて、みんなが仲良しです。
Mたちが住むコチダ国の草切村では、
全体的にそろえよう、という風潮があり、
ひとつの流行がはやると、
みんなが同じ格好をする傾向があります。
親方のDや、リーダーのFとGのいる
百輪村は、わりと自由度が高いですが、
それでもO国に比べると、
大きくまとまろうという感じはします。
なので、「それぞれが違ってても、OK。
多少とんがるところを持っていたとしても、
我が道を行くのは、決して間違いではない」
というO国の考え方は、
学ぶべきところだろうなと思うMでした。
Mは昔から、
父親のNに優柔不断であることを注意され、
常にNに何でも決定づけられていたのですが、
百輪村のDたちのおかげで
自己主張ができるようになりました。
さらに今回、O国に来たことで、
「俺は、俺のままでもいいんだ」
という思いを、さらに強く持つことが出来ました。
5
その後、3年ほど経って、
Mたち3人はコチダ国に戻ってきました。
異国の経験によって裏打ちされた静かな自信が、
彼らのたたずまいを大きく見せていました。
あの頑固で、仕事以外の外出を嫌うNが、
空港の出口で首を長くして待っていたので、
息子のMは驚きながらも嬉しくなりました。
Nが運転する車で、
Mたち3人は草切村方面に戻ります。
ハンドルを握るNが、咳ばらいをしながら聞きました。
「お前たち、どうだったんだ?O国は」
「とても勉強になりましたよ!」
「行って良かったです!」
と、ダズンの2人が言います。
その後で、息子のMが、言いました。
「O国の大工の技術は本当に最高だった。
ぜひ、草切村と百輪村で、
この学んだことを生かしていきたい。
親父にも親方のDさんにも見てもらいたいんだ、
O国の伝統と、その自由な感性を。
きっと、気に入ると思うよ」
Nは、「そうか・・・うん。わかった・・・」
と、口をぐっと引き締めて、
自分の息子の無事の帰還と成長に
涙ぐみそうになるのをこらえていました。
帰国した3人は、まずは故郷の草切村に
顔を出してから、すぐに百輪村に行きました。
作業場にいたみんなと、再会を喜び合います。
お土産を配ったり、土産話をしたり、
大いに盛り上がりました。
そして、その3人は、それぞれが得た学びを
コチダ国で発揮していきます。
草切村の伝統を生かしつつ、
百輪村の大工Dの柔軟性も取り入れ、
O国のアートの色彩や感覚も融合したので、
まったく新しい大工の技術が
徐々に形となって表れていきます。
Dの弟子たちが作る家具は、
「百輪ブランド」「草切ブランド」
と、二つに分かれましたが、
それはケンカをしているわけではなく、
単にFとGが手掛けたものと、
ダズンたちが手掛けたものを
区別しているだけのことです。
本当は双方の親方の名前を取って
「”Dブランド”にしようよ」
という案も弟子たちから出たのですが、
Dは頑なに首を振りました。
「俺の名前が出るなんて、ありえない。
大工は、縁の下の力持ちでいい」
弟子たちはハッとして、背筋を伸ばしました。
弟子たちは、ますます
Dについていきたい、と思うのでした。
コチダ国の片隅で、少数の大工集団の手によって、
鮮やかな色彩、自由な線、そして温かい手触りの
作品や建築物が次々と生み出されていきます。
Mたちが持ち帰った
「自分らしくあっていい」という生き方も、
そこにそっと載せられていました。
彼らが手掛けたものには、
見えない思いが、織り込まれています。
ending music ↓