シリーズものの小説です。
目次はこちら→ 百輪村物語 目次
登場人物名は、アルファベット表記です。
舞台は、日本でも海外でも、
お好きなように、イメージしてください。
【今回の登場人物】
D(大工) 大吾 デイビッドF(大工見習) 文也 フランクG(大工見習) 弦 ジョージE(バーテンダー&村長) 栄一 エデンC(牧場主) 千太郎 クリス
見えない魔法
1
村に初夏の風が吹くころ、大工のDに、
2人目の見習いが出来ました。
Gという名で、既にいる見習のFより年下です。
親方のDと見習のFが
いつも楽しそうに大工仕事をしているのを見て、
「ぜひ自分もやりたい。弟子にして欲しい」
と、頼み込んできたのです。
もちろん、2人は大歓迎しました。
Gは、少しずつ仕事を覚えていきましたが、
先輩のFに対して、ライバル心を持っていました。
負けたくない気持ちが大きくて、
Fよりも早く、多く、仕事をしようと、
いつも焦っていました。
親方であるDは、
「G、慌てなくていいんだ。ゆっくりやれよ」
と、時々声をかけるのですが、
あまり耳に入っていないようでした。
ある日、屋根でくぎを打つ工程がありました。
Dは、見習の2人にハーネスをつけ、
屋根に上らせます。
親方のDは、建物の下で作業を始めました。
FとGは割り当てられた所で、
釘をトコトコと打っていきます。
Gは、先輩のFのやり方がゆっくりなのを見て、
心の中で、ちょっとバカにしていました。
なので、早々に釘を打ち終わり、
得意げにDを呼びました。
「親方、もう済みました!」
Dは梯子を上ってきて、確認します。
「どれどれ・・・。うーむ、これは」
Gは、手は早いのですが、雑でした。
「G、よく見ろ。釘がどれも曲がっているだろう?
これじゃあ、板が止まらないんだ。
1本1本、垂直に深く刺さるように、
丁寧に、ゆっくりやってみろ」
「ゆっくりですって?!
仕事は、早い方がいいに決まってます!」
「うーん」
Dは、くぎ打ち作業を、そこで中断させました。
3人で下に降り、次は板を切ることにします。
「よし、じゃあ、この線で切ってくれ」
と、Dが二つの板に線を引くと、
二人はそれぞれ、のこぎりを持ち、切ります。
下っ端のGは、急いで手を動かします。
が、のこぎりは、早く動かし過ぎると、
摩擦で熱が発生し、切れ味が悪くなるのです。
Gののこぎりは、途中で動かなくなりました。
Fは、ゆっくり引いて、最後まで切れました。
「先輩の方が、良いのこぎりなんでしょ?
そっちと交換してください!」
「ええ?同じ物っすよ~」
「・・・G。早すぎると、切れなくなるんだよ」
「じゃあ今度は、カンナで勝負です!先輩!」
「えええ~?やりたくないっすよ、そんなの」
「もうやめとけって。ケンカするな」
「ケンカじゃないです!勝負です!」
「”悪い勝負”は、ケンカと一緒なんだぞ。
・・・ふう。もういい。
今日は、ここで、おしまいにする。
二人とも村長のとこで、茶でも飲んでこい。
それを飲んだら、今日は、休みだ」
2人は微妙な距離感で、
Eの店に歩いていきました。
Dは、頭をポリポリかいてから、
Gののこぎりの刃を直し始めました。
2
親方のDに言われて、見習のFとGは、
村長のEが経営しているバーに来ました。
そのバーは、
昼すぎから夕方まではカフェです。
まだ午前中なので、開店前でした。
「ちわっす、村長」「こんにちは~」
「おや、いらっしゃい。2人とも」
Eは、店内の拭き掃除をしていましたが、
中断して、2人をカウンター席に座らせます。
2人の話を聞きながら、Eはお茶を入れます。
「なるほど。そう、Dに言われたんですね。
さあ、お茶をどうぞ」
「あざっす」「いただきます」
「そういえば、もうすぐお昼ですね。
ナポリタンを作りますけど、食べますか?」
「ごちになるっす!」「ありがとうございます!」
「では、待っててくださいね」
Eは玉ねぎを取り出すと、皮をむいて、
まな板の上で、カカカカと音を立てて切ります。
その早業に、Gはうっとりしました。
「すごく早いですね!かっこいいです」
「私も最初は、ゆっくりにしかできませんでしたよ。
毎日切っていたら、自然に手が覚えました」
「手が覚えるんですか?」
「そうです。でも、手が覚えるまでは、
時間がかかるものなんです。
Dも、そう言いたかったのだと思いますよ」
Gは、不満そうな顔をしました。
「でも、早くないと、かっこよくないし・・・」
すると、先輩のFが言いました。
「G。釘を曲げるほうが、かっこ悪いっすよ。
釘がかわいそう、っす」
「え?かわいそう?」
「そうっす。釘だって、役に立ちたいんす。
でも、すごく曲がっちゃったら、
もう捨てるしかないんすよ」
「・・・」
「さあ、出来ましたよ。どうぞ召し上がれ」
「うわあ、やばいっす」「いただきます」
山盛りのナポリタンのパスタを、
2人は堪能します。
村長のEは、その間に、拭き掃除を再開しました。
カウンターのボトルを一本一本、手に取って、
布で拭き、またもとに戻します。
そして、ラベルを客の方に見えるよう
微調整をするのを見て、Gは言います。
「あの、いちいち、拭いているんですか?
そんなに汚れてないのに」
「ええ。1日経つと、案外、埃がつくんですよ。
瓶にも、グラスにも、店の床にも」
「でも、そんな。
ちょっとくらいなら、わからないですよ」
「G。もし、そのナポリタンを食べる前に、
お店のテーブルが汚いのに気づいたら、
君は食べたいと思いますか?」
「え、それは、・・・ちょっと嫌です」
「あー、G、それと一緒っすよ。
曲がった釘のささった屋根を、
お客さんは喜ばないっす」
「え・・・あ、はい・・・」
大盛の昼食でお腹がふくれた2人は、
Eに深くお礼を言って、店を出ました。
3
村長のカフェバーから出ると、
大工見習のGが、先輩のFに頭を下げました。
「先輩。生意気言って、すみませんでした」
「え、いやあ、そんな。おいらも、
偉そうなこと言って、ごめんっす」
「これからも、いろいろ教えてください」
「えっと、おいらも勉強中なんだけど、
とにかく親方の手をよく見るのが、大事っす。
あと、親方の一言一言を、噛み締めるっすよ。
これからも、一緒に、頑張るっすよ」
「はい、よろしくお願いします」
翌日。
2人は、Dのところに集まりました。
「よし、じゃあ、Fは昨日の続きを頼む。
Gはまず、曲がった釘をゆっくり抜いてくれ」
「はい・・・。あの、曲がった釘って、
本当に、もう使えないんですか?」
「うーん。まあ、ものによるな。
角度によっては、直せるやつもある。
あとで、直し方を教えるよ。
慎重に、そーっと、釘を抜いてこい。
全部抜けたら、それを持って降りといで」
Gは、自分が昨日、下手に打ち付けたものを、
くぎ抜きとペンチで1つずつ抜いていきました。
それを持って、Dの待つ階下に来ました。
「じゃあな、こういう固いレンガとか
金属板の上に、曲がった釘を置いて、
少しずつ、少しずつ、慎重に叩いて
まっすぐにしていくんだ。
手本を見せるから、よく見てるんだぞ」
「はい!」
「まず、こっち側、次は、別の方から・・・
力を入れ過ぎないように注意するんだ。
ほら、こうすると、まっすぐになった。
次はおまえだ。G、やってみろ」
「はい!」
Gはもう、慌てることなく、
じっくりと仕事を進めていきました。
そうして、やっと1本がまっすぐになりました。
「よし、そうだ!よくできた。上出来だ!」
「・・・親方・・・。すみませんでした。
僕、間違ってました。」
Dは、Gの背中をポンポンと叩きました。
「間違えたっていい。大丈夫だ。
ゆっくりやってこうな。
俺だって、最初から、
うまくできたわけじゃないんだから」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、他の釘も同様に直してくれな。
俺は、上をちょっと見てくるから」
「はい」
Gは、またひとつ、釘を打ち始めました。
親方のDは、はしごを上って屋根に上がると、
そーっと、作業中のFの所へ行きました。
「F、カフェバーで何かあったのか?
とんがってたGが、だいぶゆるくなったぞ」
Fは、にこっと笑って、
「ナポリタンのおかげっすかね?」
と、言いました。
4
大工のDと、見習のFとGは、
村人の屋根を修理したり、依頼された棚や柵、
納屋、テーブルなどを次々と作っていきました。
ゆっくり作業しているはずなのに、
逆に完成のスピードがアップしました。
ゾーンに入ったのか、3人は息を合わせて、
大雪を蹴散らすラッセル車のごとく、
どんどん仕事を片付けていきました。
そうこうしているうちに、
村に、秋が近づいてきました。
「・・・親方、ここ、・・・どこっすか?」
と、突然、見習のFが変な声を出すので、
「どこって、おまえ。うちの村だろ?」
と、Dも周りを見回すと、
いつの間にか村の様子が激変していました。
これまでは、殺風景な村でしたが、
村中に花が咲き乱れ、畑には作物があふれ、
いつの間にか店がたくさん並んでいます。
八百屋、クリーニング屋、花屋、
パン屋、菓子屋、貸本屋、貸衣装屋、
肉屋、雑貨屋、チーズ店、画廊・・・。
これまで3人は
自分たちの作業に熱中してましたが、
その間に、村人たちは、自主的に
やりたいことを始めていたのでした。
村人たちは、てんでに声をかけていました。
「おーい、またジャガイモが取れすぎたんだ、
好きなだけ、持ってってくれんかあ」
「あいよ。こっちの花も、持ってって~」
「パンが焼けたぞー」などと。
わざわざ遠くの市や隣国に行かずとも、
この村の中で、大きく経済がまわっていました。
しかも、お金のやりとり無しに。
呆然とする、大工の3人。
「・・・F、これも、ナポリタンのおかげか?」
「わ、わかんないっす」
「すごい。僕、この村、大好きです!」
見習Gの言葉を聞いて、
Dは昔の友のCを思い出し、
目が潤んできました。
「大好き、か。あいつも、そう言ってたな」
と、Dは、空を見上げました。
空には、羊雲が広がっています。
Dは、見習2人に、向き直ります。
「村が元気になったのは、お前たちのおかげだ。
ありがとうな」
「なんすかあ、親方、水臭いっすよ~」
「僕、なんかすごくうれしいです」
3人で、ニコニコしました。
「今日は、このベンチを作って終わりだ。
明日は、久しぶりに休もうか。
一日、のんびりしていいぞ」
「了解っす」「わかりました」
3人は、今日の仕事を始めました。
5
さて、翌日の昼過ぎ。
大工のDは、村長Eのカフェバーに行きました。
Eの店は、ランチタイムは忙しそうなので、
Dは時間を少しずらして来たのでした。
「よう、E」
「ああ、D。久しぶりですね」
「うん、今日は休みにしたんだ。
なんか、知らない間に、
村じゅうが生き生きしてて、ビックリした」
「気づかなかったんですか?
だいぶ前から、こんな風ですよ」
「え、そうなのか?
・・・なんで見えてなかったんだろう」
「なんででしょうね」
カウンターに座ったDは、
ランチとお茶を頼みました。
Eは、Dのお好みのセットを用意します。
「あ、そうだ、E。
ずっと前に、うちのFとGが
このカフェバーで
ナポリタンを食ったんだよな?」
「・・・ああ、夏くらいの話ですね。
山盛りを作って、出しましたよ」
「そしたらGが、えらい素直になっちゃってさ。
それって、”ナポリタンの魔法”だよな?!」
「え?魔法?」
「素直になあーれー、ナポリーターーン♪
村が変身、ナポリーターーン♪」
Dは、真剣な顔で、右手を右へ左へと
魔法の杖を振る仕草をしました。
体の大きなDが
意外に子どもっぽいことをするので、
Eは目が点になり、そのあと
「・・・プッ!」急に噴いて笑い出し、
お腹を押さえます。「い、いたたた」
「なんだよ、そんなに変か?」
「ちょ、ちょっと、待ってください、くくっ。
その・・・ツボに入ってしまって。
・・・笑い過ぎて、お腹が痛い・・・」
Eの泣き笑いを見て、Dも苦笑いしました。
「E、普段クールなお前が
そんなに笑うの、初めて見た。
ほんとに、魔法かもなあ。
もっと笑え~い、ナポリーターーン♪」
「や、やめてっ・・あたたた・・・」
カウンターの棚に置かれた空き瓶が
楽しそうな二人の様子を、
明るく映し出していました。
ending music ↓
「The Beatles-Here Comes The Sun」