小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
百輪村の人
V(元SE・パートタイマ) 美々 ビビ
E(村長・教諭)     栄一  エデン
 
草切村の人
草切マーケット・店長  (No Name)
α(パートタイマ・気弱) 在子  アルマ
δ(パートタイマ・賛同) 丑実  グロリア
γ(パートタイマ・強気) 寅代  デイジー

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない風穴(5)

 

 

草切マーケットの店長が

「・・・ホントにできたら、尊敬するよ」と

ぽつりとつぶやき、控室から出て行ったあと、

私はエクセルを駆使して、シフト表作成に取り組みます。

 

「うーん、みんなが休みやすいように・・・

 ってことは、どこかで1人が欠けても

 余裕があるように、もってかなきゃ、だな~」

つい、考えてることが口に出ちゃう私です。

「そしてみんなが毎月1回は有休取れるようにして・・・。

 なるほど、これは頭を使うわ。面白~」

 

ついのめり込み過ぎて、あっという間に時間が経ちました。

「Vちゃ~ん、ど~お?」

って、店長が猫なで声で入ってきたときには、

もうほぼ形になってました。

 

「店長、カレンダーと連動させましたから、試しに

 シフトの人名と稼働時間を入れてみてください」

「ええ?もうわかんな~い」

「わかんな~い、じゃないですよ」

 

表を作るより、店長に教える方に時間がかかりました。

 

 

それから2週間後、私は相変わらず、

淡々とパートの仕事をしてたのですが、

「休みが取れない」とか

「休憩が取りづらい」とかの愚痴も聞こえなくなり、

「休日出勤の依頼がなくなって、びっくりだよね」

とか言う声もちょっと聞こえました。

 

レジ打ちでちょっと暇になった時、αさんが来ました。

「あなたが作ったプログラミングが、

 みんなの働き方を変えたみたい。

 すごいのね。ありがとう」

 

「いや、別に。αさんが休みづらいって言ってたから、

 ちょっとパソコンをいじっただけですよ」

 

「・・・ホント言うとね、休みづらかったのは、

 私が人の顔色ばかり見てたせいだって、

 やっと気づいたの。

 Vさんみたいに、周りを気にしないようにしようって

 決めたら、胃炎が良くなったのよ。ありがとう」

 

αさんの胃炎が良くなるという副産物に驚いて、

(あ、知らないところで役に立てて良かったな)と、

私の眉間の縦じわがちょっと緩くなりました。

 

「ああ、そうだったんですね。

 まあでも、私は周りを気にしすぎないせいで、

 いつも風当たりが強いですけどね」

 

「Vさん・・・あなた、レジなんか打ってないで、

 もっと、ちゃんとした仕事をしたらどう?」

 

「え?レジ打ちも、立派な仕事では?」

 

αさんはプーッと吹き出して、

「Vさんって、面白い」と笑うのですが、

私にはどこが面白いのか、さっぱりわかりませんでした。

 

γさんとδさんたちは、休みが取りやすくなっても、

今度は「冷房がきついのよね」とか

「床の色が気に入らない」とか

別のことで文句を言ってるので、もう知りません。

 

 

百輪村の全村民会議に出ると、

いつもどおりの、ぬるい議題に、

生あったかい結論が出てます。

 

でも、私はもう、文句を言うのはやめました。

γさんやδさんみたいに、

重箱の隅を楊枝でほじくるようなのって、

かっこ悪いなって気づいたからです。

 

私は私が出来ることだけやって、

もう、それでいいかな、って思うようになりました。

 

 

 

ending music

 

In the Enchanted Garden - Kevin Kern