その男は、生まれながらにして、
周囲の人々に愛されていなかった。
何をしても、怒られ、けなされ、邪魔にされ、
自分の居場所が何処にもなかった。
なので、もう誰も愛さない、と心に決めた。
しかし、ある日、教会で神の話を聞き、
少なくとも神にだけは愛されたいと思った。
神に振り向いてもらえるならと、
好きでもない動物の頭をなでたり、
内心どうでもいいと思うような人間を
大切にするふりさえした。
この行為は、神に祝福されるか、否か。
それだけが、男の判定方法になっていた。
これだけの善行を積んでいる自分は、
当然、神に愛されているはずだ、と考えた。
しかし、心の何処かに
言いしれぬ不安がこびりついていた。
どうしても神に会いたくなった男は、
世の中のあらゆる方法を試した。
そして、とある人物の導きにより、
天頂へと続く道を教えられ、様々な苦難の末、
とうとう神のみ前にたどり着くことができた。
その輝くお姿に対し、男は語りかけた。
「神よ、あなたは神ですか」
「いかにも。私は神である」
「あなたは私を愛していますか」
「むろん、あなたを愛している」
「これだけの善行をしました。だからですよね?」
「むろん、あなたを愛している」
「ですが、実は、このような罪も犯しました」
「むろん、あなたを愛している」
「そんな答えを聞きたいのではない。
どうすればもっと、あなたに愛されますか」
「むろん、あなたを愛している」
「何をしたら、あなたに愛されなくなるのですか」
「むろん、あなたを愛している」
「基準をおっしゃってください!つらいのです!」
神は、一呼吸おいて、口を開いた。
「基準などはない。
おまえが何をしようと、しなくても、
何を持っていようと、いまいと、
何を得ようと、何を失おうと、
どんな姿をしていようと、
何を考えようと、信じていようと、関係はない。
生まれる前からも今もそのさきも、
寿命を終えてからでも、永遠に、
愛がなくなるということはない」
男の目から、涙がこぼれた。
「わかりました。たった今、わかりました。
私の持っていたモノサシは、
あなたのモノサシではなく、
自分のそれだったことを」
「愛する息子よ、これからどうする?」
「また人間世界に戻ります」
「よろしい、そして、いつでもまた、来るがよい」
「ありがとうございます」
男は、もとの場所に戻ってきた。
男からは、けわしい顔つきは消えていた。
チェックしたり、ジャッジすることもなくなり、
人付き合いが、穏やかにゆるやかになった。
今ここでの世界を、ありままの姿で、
愛しく思えるようになった。
この世界と同様に、自分自身をも、
ありのままで良いのだと思えるようになった。
それがわかった男は、残りの余生を、
大いなる安心感と
静かな喜びの中で生きた。
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出典は忘れました。
(以前にもUPしたかも。それすらも曖昧。)
↑ 個人的な余生の理想は、こんなイメージ。
