海の底に沈む白い石が、
偶然とおりかかった青い魚に恋をした。
青い魚は、白い石の周りに毎日来て、
遠い世界の話をしてくれた。
青い魚は、旅が好きだった。
今日からまた別の国に行く、という。
白い石は、動けない自分を悲しんだ。
青い魚と一緒に行けないなんて。
ずっと一緒にいられないなんて。
白い石は、青い魚に頼んだ。
「あなたのことが好きなの。
遠くに行かないでほしいの。
ずっとそばにいてほしいの」と。
青い魚は、悲しそうに首を振り、
「ごめんね。君を嫌いなわけじゃない。
ただ、僕は、旅をしたいんだ。」
と、出かける用意を始めた。
白い石は、泣いたり怒ったりしたが、
青い魚の気持ちは変わらなかった。
白い石は、
自分の体にくっついている海草を伸ばして、
青い魚の体をからめとった。
青い魚は、身動きが取れなくなり、
とうとう息絶えた。
白い石は、海草にくるまれた青い魚の骨を
何年もじっと抱きしめていた。
白い石の横にいる赤い石が、
ずっとそれを見ていた。
赤い石は、つぶやいた。
「白い石さん、それは、愛じゃないと思うよ。
もうそろそろ、骨を離しておやりよ」
白い石は、赤い石をにらんだ。
「一緒にいるのが、愛なの!」
赤い石は、ため息をついた。
「私たち、赤い石と白い石は、
青い魚と出会うずっと前から
隣同士で、一緒に並んでいるよね。
けれど、私たちの距離は、とても遠いね」
「何なの?言っている意味がわからない」
「目に見える距離と、心で感じる距離は違うんだよ」
白い石には、理解できなかった。
青い魚の骨は、少しずつ解けて、消えてしまった。
白い石は、次の青い魚を待つことにした。
白い石は、また長い海草で捕らえようとしたので、
赤い石が、近づこうとする魚にあわぶくを投げつけて
魚たちを遠くへ逃がした。
「・・・泳ぐものを、無理に捕らえてはいけないよ」
「私の邪魔をするなんて、ひどい。
ひとりぼっちの私の寂しさは、
あなたにはわからないでしょうね」
「ひとりぼっちじゃないよ。
私たちは、素敵な海の中にいる」
「もう!わけのわからないこと、言わないでよ!」
白い石は、赤い石を憎んだ。
幸せになれないのは、赤い石のせいなんだわ!
ある海流の強い日に、白い石は赤い石に体当たりした。
赤い石は、割れてしまった。
白い石も、割れてしまった。
白い石から、ゆっくりと、海草がはがれていった。
割れた白い石は、朦朧とする意識の中で、上を見上げた。
大小さまざまな魚たちは、照り広がる海面をバックに
悠々と泳いでいた。
そうしてやっと白い石は、
魚本来の美しさと
石本来の美しさに気づいた。
白い石と、赤い石は、永遠に沈黙した。
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海は、これまでのすべてを、じっと見ていた。
いとしい白い石と赤い石のほほを、
そっとなでた。
海は、すべてを内包し、すべてを愛している。
これまでも、今も、いつまでも。