昔むかし、ある国のお城に

ダグレという名の王様が住んでおりました。


ダグレ王には、二人の息子がいました。

第一王子のワイトは、すらりとした高身長、

さらに見目麗しく、馬術などの武芸にも秀で、

帝王学を年若い内に全て吸収するほどの秀才。


一方、第二王子のヤロは、どちらかというと

ポッチャリ型で背が低く、何をやっても不器用で、

唯一得意なことといえば、

3オクターブをカバーできる口笛だけでした。


「お前の口笛は、国一番、いや世界一だよ。」

といつもほめてくれるので、ヤロ王子は、

優しい兄、ワイト王子のことが大好きでした。


ところが、流行病のために、ワイト王子は

ある日、あっけなく世を去ってしまいました。


ダグレ王は、長子のワイト王子に

ものすごく期待を寄せておりましただけに、

心痛が激しく、まったく立ち直れませんでした。


ワイト王子の盛大な葬儀の後、

国中に、以下のようなおふれを出しました。

「今後一切の喜び事、気晴らしは禁止である」と。


そのため、国中に活気がなくなってしまい、

全体の空気がどんよりしてしまいました。


ダグレ王は、公務をほっぽり出して、

ワイト王子の死をいつまでも嘆いていました。


毎日がお葬式のような雰囲気の中で、

ヤロ王子は、自分の部屋でこっそり口笛を吹きました。

優しかった兄が生前好きだった曲を。


それを聞きつけたダグレ王は、

ヤロ王子の部屋に飛んできて、頬を打ちました。

「お前は兄が亡くなったというのに、

 何をのんきに口笛など吹いているのか!」


ヤロ王子は、もう口笛を吹くのを止めました。


さて、5年以上も嘆いていたダグレ王は、

心労が重なったせいで、伏せってしまいました。


ヤロ王子は、城の庭に咲いている花を摘んで、

父王のベッドにお見舞いとして持っていきました。


ところがダグレ王は、烈火の如く怒り、

ヤロ王子の手にある花束をたたき落としました。


「女のように、花なんぞ摘んで何になる!

 お前は、何をやってもワシをいらだたせるぞ。

 ああ!!何故、ここにいるのが

 ワイトではなく、ヤロなのだろうか」


そのセリフを聞いたヤロ王子は、


「父上のお気持ちは、よくわかりました。

 あなたにとって、私の存在は、

 目に見えないか、あるいは、単に

 目障りなだけなのですね・・・」


と、ポツリとつぶやくと、父王のベッドから離れて、

そのまま城を出ていきました。


ヤロ王子が国境の所まで歩いていくと、

偶然、旅芸人風のジプシーたちに出会いました。


得意の口笛を披露して、仲間にしてくれるよう頼むと、

ジプシーたちは喜んで受け容れてくれました。


ヤロは、王子という自分の身分を捨て、

新たな仲間たちと共に、故郷を去りました。


一方、失言を反省したダグレ王は、

城中の家来たちを使って、一生懸命、

第二王子の行方を捜しましたが、 

もう、ヤロ王子の消息はつかめませんでした。


「なんということだ。

 ワシは、一度ならず、二度までも、

 大切な宝を失ってしまったのか」


そうして二度と、

ダグレ王に笑顔は戻りませんでした。


                   (ENDE)


******


(蛇足)


今までの自分にしては珍しく、

アンハッピーな話を作ってみました。


登場人物名は、色から取りました。

(ダグレ→ダークグレー、ワイト→ホワイト、

 ヤロ→イエロー)


例えとして、

ワイト=「過去の幸せ」、ヤロ=「今の幸せ」

を、表しています。


どうぞ、読者の皆様は、

ご自身の中にいる「ヤロ王子」を

十分に慈しんでくださいますように。