田舎の母は、赤十字のボランティアをしている。

一年に1度、近所のデイケアセンターでの

ボランティア当番が回ってくるらしい。


2人一組で活動するのだが、当番の少し前日に、

母のパートナーが脚を骨折する事故に。


なので、ちょうど帰省してのんびりしていた私に

白羽の矢が当たった。


母の当番の日と、パートナー骨折と、

娘の私がたまたま帰省している、という三拍子は、

きっとどこかで意味があるに違いなかった。


やったことのない初めての仕事を頼まれると、

私は、いつも、ものすごく緊張する。

「ちゃんと出来るかわからない。不安だ」と母にもらすと、

「そんなに深刻に考えなくてもいいよ」と言われた。

未だに完璧主義の自分が、またしても露呈した。


父の車に乗せてもらい、10分後に到着したのは、

特別養護老人ホーム。


仕事は、午後のお茶の補助だった。

入所者やデイサービスのお年寄りたちから注文をとり、

飲み物を作ってお渡しする係。

学園祭の模擬喫茶店の店員みたいな作業だ。

最初に、職員の方から丁寧な説明があり、

なんとか出来そうかも、と少しホッとする。


所定のお茶の時間になり、一カ所に人が集まる。

ほとんどが車いすの方ばかりなので、

小学校の教室みたいな場所が

あっと言う間にギュウギュウになった。


コーヒー、ココア、紅茶、日本茶・・・などの注文に加え、

それぞれの体調にふさわしいオヤツをお出しする。

(和菓子、洋菓子。上手に飲み込めない人はゼリー等。)


普通のホットでは熱すぎるので、少量の氷を入れる。

追加する氷の量がよくわからなくて、

思った以上にぬるくなったり、まだ熱いとか、難しい。

砂糖やミルクの量も適量なのか否かわからず、焦る。

それでもほとんどのお年寄りは、

出された物を文句も言わず受け入れ、淡々と喫茶される。

彼らの懐の広さに、頭が下がるばかりである。


たった一人だけ、「まずい」とか「ぬるい」とか

はっきりおっしゃってくださる方がいて、入れ直させてもらう。

むしろそちらの方が、私には有り難かった。


最初は一つ一つ丁寧に煎れてお出ししていたつもりだが、

どんどん人が増えてくるので

最後の方はパニックになってしまい、流れ作業的になる。

「こんなヘタレですみません」と心が折れそうになりつつ、

「とにかく出来ることをやろう」と気持ちを奮い立たせた。


職員の方は、ひとりで2つの車いすを器用に押していくなど、

とにかくパワフルで元気で終始にこやかであった。

同時作業の出来ない私には無理な職業だなあと痛感した。


無我夢中の1時間半が過ぎて無人になった後は、

後かたづけをして、ボランティア作業は終了になった。

センターのお役に立てたんだか、

かえって足手まといだったのか、未だによくわからない。


ただ、リュウマチで両手足の指が曲がっている母なので、

母の仕事が少しでも減ったのなら良かった、ということで。


自前のエプロンをたたみ、母と玄関に向かう。

廊下には、入所者さんたちの折り紙や書道の作品などが

いっぱい展示されていて、幼稚園のようだ。


将来、自分もこのような施設でお世話になるのだろうか。

清潔で広々とした施設、優しくケアしてくださる職員の方々、

緑が多く、静かな環境、上げ膳据え膳の食事。


そう、施設としては、とても素晴らしい。

でもなるべくなら、私個人は遠慮したいと思う。

出来ないところはヘルプを頼むが、

出来る部分はセルフでやらせてもらいたい。

あと、好きなことをやらせてもらいたい。

みんなで一緒に書道とかは、いやだ。

一人でパソコンに向かう方が私は好きだ。


今年73歳になった母も、同感だ、という。

お互いにピンピンコロリでいこうね、と微笑み合った。


今の所、台所に立てる自分の身体が本当に有り難い。

痒いところに手が届く自分にありがとう。

この身体を、死ぬまで大事に使いたい。


それから、

自分としてはずっと自力で何でもしていたいが、

やむを得ない事情で介護される身になったときは、

お世話をしてくださる人々への感謝を

絶対に忘れないようにしたいと思った。