ある日、図書館へ本を返しに行く途上で、

キーホルダー風のぬいぐるみが

汚れた状態で落ちていた。


可哀想に思い、帰りに拾おうと思った。


しばらく歩くと、また別の

チェーン付ぬいぐるみが放置されていた。


あらら。それも、帰りに拾おうと思った。


さらに進むと、今度は事務用クリップが

点々と3つ落ちていた。


なんでこんなに物が落ちているのか。

もし誰も使わないなら、私が拾いましょう。


それに、こんなに物が落ちているなら、

ひょっとすると小銭も落ちているかも。

いっぱい拾って帰ろう。と思った。


私はおろかにも、「拾いたい」と願ってしまった。


図書館を出た後、ぬいぐるみを2つゲットした。

ものすごく汚れていたが、洗えばきれいになるだろう。

得したなあ、と思った。

(クリップは小さすぎて、もう見つからなかった。)


てくてく歩いていたら、大きなトラックが

私の横を走っていった。


すり抜けざま、ぼとり、と何かを落とした。


それは、男性用のゴム手袋の片方だった。

トラックは行ってしまった。


ゴム手袋が落ちても・・・。私は使わないよ。

なので、それは落ちたまま、放っておいた。


次にスーパーに行った。


漬け物コーナーに向かうと、誰も触っていないのに、

茄子の漬け物の袋が、ぼとり、と落ちた。


買えってこと?でも、今回は要らないですよ。


レジで並んでいたら、手が滑って、

自分の財布がぼとり、と落ちた。

あわてて拾った。

いやーねー、今日は、よく物が落ちる。


精算しおわって袋詰めしていたら、何かが落ちる音。

隣にいたおばさんが立ち去り間際

ラップの箱を落としてしまい、急いで拾っていた。


鈍い私でも、ようやっとここで気が付いた。


私が「拾いたい」と思ったから、物が落ちるのだ、と。


拾うためには、誰かが落とさなくてはならない!


その因果関係に、思い至った。


いやはや。怖いことだ。

もう、「拾おう」などとは思いません!


うっかり自分の命まで落としたくない。


下を向いて歩くのはもうやめて、その日は帰宅した。


チェーン付ぬいぐるみは、洗濯したらきれいになった。


それを物干し竿にぶら下げて、

「君たちを救うことが出来たことが今日の収穫。

 あと、変なことを願うのは、もうやめるよ。」

と、そっとつぶやいた。