小説です。1の続きです。


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Aさんは、地球で83年間の人生を過ごしました。


そのAさんの日記は、こんな風でした。

「朝起きて、仕事して、夜寝る」

これが、ずっと続いていました。

Aさんは、とても几帳面な字で、

一生懸命、黒ボールペンで

一日1枚ずつ、しっかりと書いてありました。


Aさんの発表を聞いて、みんなは拍手しました。

先生は、Aさんの日記帳の表紙に、

勤勉さを表す色のシールを貼ってあげました。


次に発表したBさんの日記も、

Aさんとほとんど変わりませんでした。

「朝起きて、仕事して、夜寝る」

という日々を、57年間続けました。

ただ、Bさんは、Aさんと違って、

字は乱暴でしたが、

毎日色を変え、香り付きのペンで記入していました。


Bさんの発表を聞いて、またみんなは拍手。

隣の席のAさんは、

「なるほど。色を変える、という手があったのか。」

と勉強になりました。

一方Bさんは、先ほどのAさんの日記から、

「丁寧に書くともっと美しい。」ということを勉強しました。


先生は、Bさんの日記に、

創意工夫を示す色のシールを貼ってあげました。


Bさんの次に席を立ったCさんは、71年の生涯でした。

Cさんの日記は、とても波瀾万丈でした。

冒険活劇のようにストーリーが濃く、

みんなは感心しました。


先生は、みんなの拍手の後、

Cさんの日記に、勇気を示す色のシールを貼りました。


Dさんは穏和そうな人でした。90才まで生きたそうです。

たくさんの子どもと孫に囲まれた人生でした。

先生は、家族愛を示す色のシールを

発表後、Dさんの日記に貼りました。


先ほど遅れて入ってきたQさんは、

みんなの発表を聞いている内に、

どんどん顔が真っ青になりました。

とんでもないところへ来てしまったと思いました。


自分には、そんなエピソードはまったくないのです。

また、話すこと自体にも、ためらいがありました。


これだったら、孤独でさまよっていた

さっきの暗い森の方がましだった、とさえ思うのでした。


(つづく)