長女が突然、こんなことを言った。


「”笑顔の綺麗なヤツほど、腹黒い。”

 この言葉、妙に納得出来るんだよね~」と。


私はビックリして、尋ねた。


「な、何ですと?そんな格言、初めて聞いたよ。

 どこでそんなことを知ったの?」


「う~ん。わかなんない。忘れた。

 でも、絶対、これ、正しいと思う。」


「ほ~。そうなんだ。

 長女ちゃんは、そう思うんだ。あなたがそうなの?」


「うん。そうだよ。これって、私のことだよ。

 例えばね、学校で、自分の嫌いな人が

 『隣、座って良いかな?』と聞いてきたとき、

 私、すごく良い顔で、

 『どうぞ、どうぞ~♪』って言うんだよ。

 で、あとで、『ケッ!』って思うんだよ。」


「ほ~。なるほどねえ。

 キミの素晴らしい笑顔に、そんな意味があるとは。

 ママはちっとも知らなかったよ。

 ところでさあ、

 その”笑顔の綺麗な人”の中には、ひょっとすると、

 腹黒くない人もいるんじゃないかなあ?

 あるいは、長女ちゃんが出会った中では、

 たまたま腹黒い人ばかりだっただけで、

 この広い世界で、その格言のようなものが

 当てはまらないこともあるんじゃない?」


「い~や。あり得ない!

 笑顔が綺麗なやつは、みんな、腹黒いの!

 は~。この言葉、最高♪」


と、会話はここでとぎれてしまった。

長女が私に背を向け、パソコンをはじめたからだ。


*****


1)長女にとって、腹黒いの定義とは、なんぞや。


たぶん、外見と思っていることが違う、という、

単にウラハラな態度を差しているのでは無かろうか。


しかし、”腹黒い”を辞書で調べると、

「心に悪い考えを持っていて、ずるい」とある。


(ちなみに、”裏腹”の意味は、「反対。あべこべ。」)


つまり、嫌いな人が隣に座っても笑顔でいるというのは、

実は全然、腹黒くは無いのである。

むしろ、素晴らしい行為ではないか。

相手が不快にならないよう、配慮しているのだから。

どちらかというと、

「これから、隣の人の財布をスリとってやろう。

 『さあ、誰でも私の隣席に座って~』(ニコニコ)」

というように、

最初から相手を害する気持ちでいることが、腹黒いのである。


だから、「腹黒い」の使い方が間違っている。


2)その間違いのままでいたら、どうなるか。


私が心の底から長女をほめたときにも、

長女が私を怒る理由がなんとなくわかった。

つまり、私が普通に笑顔でいるときにも、

「ママは腹黒い。本当はほめる気もないくせに」

と、心で変換しているのかもしれない。


こんな調子だと、将来、長女に彼氏が出来て、

その彼氏が長女に笑いかけたとき、

長女は彼氏を信頼しなくなる、という弊害が出るだろう。


腹黒い笑顔と、優しい笑顔の区別をしなくなり、

笑顔の全ては腹黒さから来ている、

と考えるようになったら、長女は不幸になるだろう。


全ての笑顔人を嫌いになる、というのは、

長い人生にとって不利益である。

笑顔を見るたび、不快感を持つようになるからだ。


3)私に出来ることは何か。


まず、腹黒いの定義を訂正すること。


次に、長女に、他人の笑顔の裏にあるものは、

常に腹黒さとは限らない、ということを

根気強く教えねばならない。


一部は、全てではない!


一般意味論の、初歩中の初歩である。