童話のようなものを書いてみました。

楽しんでいただければ幸いです。


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昔むかし、ある国に、ひとりの小さな王子様がいました。


王子様が城の近くの森に入ったとき、

赤いワンピースを着た女の子と出会いました。


王子様と女の子は、お互いがとても気に入って、

毎日、森で楽しく遊びました。


王子様は、この楽しい時間が永遠であれと、強く願いました。

それほど心躍る、楽しい時間でありました。


ところが、女の子は、ある日を境に、

ぱったりと顔を見せなくなりました。


王子様は、女の子と楽しく遊んだことが忘れられず、

毎日毎日、溜息をついてばかり。


「あのときは、とても楽しかったなあ。

 また会えないだろうか。

 またあのときと同じように遊べないだろうか」


王子様の心の時計は、女の子と遊んだ時間のまま、

ストップしてしまったようでした。


心配になった王様と王妃様が、町中におふれを出して、

女の子を捜しましたが、とうとう見つかりませんでした。


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時が経って、小さかった王子様は、王様になりました。


今度はもっと遠方にもおふれを出して、

とにかくあのときの女の子を捜すことに全力を傾けました。


ところが、名乗り出るのは、別人ばかり。


王様の心の時計は、いつも同じ時間を刻んでいました。

赤いワンピースの女の子と遊んだ日々が、

どうしても忘れられませんでした。

何を食べても美味しくないし、優雅な暮らしも退屈でした。

どんな気晴らしも楽しくありません。


会いたい気持ちがつのる内、王様は病気になってしまいました。

心配した家来達は、それこそ必死になって、女の子を探しました。

なぜなら、その女の子が現れないと、

王様の病気は治りそうにありませんでしたし、

国の仕事もやってくれそうになかったからです。


そんなある日、とても美しい女性が、城にやってきました。


「王様、あのときの女の子は、私でございます。

 親の仕事の都合で、遠くの国に行っておりましたが、

 王様のことはずっと忘れたことはありませんでした。

 再びお会い出来て、こんなにうれしいことはございません」


そういって、その女性は、うれし涙で王様に駆け寄りました。


ところが王様は、怒り出しました。

「私が待っているのは、赤いワンピースを着た女の子だ。

 あなたのように、大きな女性ではない。帰りたまえ」


その女性は、今度は悲しい涙で城を出ていきました。


病気の治らない王様は、よろよろと城を出て、

あのときの森に再び入ってみました。


すると、なんと、そこに、赤いワンピースを着た女の子がいました。

顔もあのときの女の子、そっくりでした。


「おお、私が待っていたのは、そなただ。 また一緒に遊ぼう」


するとそこにいた女の子は、

「あなたは誰ですか?私はあなたのことは知りません。さようなら」

といって、去っていきました。


「・・・またしても、別人であったか」

王様は、とうとうそこに倒れてしまいました。

王様をやっと見つけた家来達が、あわてて王様をベッドに運びました。


「でも、明日は会えるかもしれない。明日こそ。」

王様は、自分の目が開かなくなる日まで

ずっとそう言い続けておりました。


王様の心の時計は、子どもの頃に止まったままで、

とうとう死ぬまでピクリとも動きませんでした。



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時は移ろいゆくのに、過去にこだわってばかりいると、

現在の楽しみさえ感じられなくなるものです。


そして、今ある幸せを逃すことにさえ、なるかもしれません。


あなたの「心の時計」は、ちゃんと現在を指していますか?