二つのペットボトルがある。


「透明な存在」と自分で名のるペットボトルは

中身がからっぽだ。


(中身が入っているのかもしれないが

 本人は気が付いていない。)


そのペットボトルは、

自分が捨てられている、

誰からも顧みられないと感じている。


立つ気力もなく、口を開けたまま横倒しになり

「水、水をくれ」と泣いている。


もしくは、口をきゅっと締めて、

余計な水分が入らないよう意地を張っている。


水が中に入っているとしても、

それを他者へやろうとはしない。

そんなもったいないことをしたら

損だと思っている。


そして、自分を捨てた人や

相手にしてくれない人たちを恨み続けている。


一方、「透明な心」という名のペットボトルは

中身にたっぷりと水を湛えている。


水はやはり顧みられないことが多い。

なぜならそれはありきたりな飲み物だから。


でもあるとき誰かが怪我をしたときは、

その水をかけて消毒出来る。

誰かが喉が渇いたときは、潤せる。

汚れた場所を洗い流せることも出来る。


中身が減ったら、自分で美しい湧き水を足し、

次の機会を待ち続ける。

自慢のミネラルウォーターを入れておく。


****


誰かの役に立ちたいから、

きれいな水を常に蓄えていたい。


いつか、そういう存在になりたい。

(現在、修行中)


もし出来ることなら、

空っぽで倒れているペットボトルにも

注いであげられたらいいなと思う。


でも、まず注ぐ前に、

彼に自分で立ってもらう方が先なのか?


君は自分が空っぽに思えるけれど

そんなことはない。

まだまだこれから、いくらでも水は入る。

だから、ちょっと立ってご覧よ。

君にも出来ることはいっぱいあるんだよ。


そうやって、声をかけたら、

立ってもらえるだろうか。


・・・でも、声をかけるのはやめておこう。


****


ほんの2~3日前の私なら、

空っぽのペットボトルの手をひっぱって

起き上がるのを手伝い、

「さあ、水をあげるよ」と

自分の水を注いであげようとしただろう。


でも、今は、それをするのは

おせっかいだと思っている。


彼が寝ているのは、

彼がそうしたがっているからだ。


だとしたら、邪魔をしてはいけないんだ。


いつか彼が自分の足で立ちたくなり、

自分の水を誰かに注ぎたいと思う日が

彼に訪れることを願いつつ、

ただそばで見守っていよう。