自作の小説「見えない羊」です。羊

 

 

映画「箱の中の羊」の設定をお借りして、

ミリしら妄想で好きな話を書いています。

 

映画から参考にしている設定はこちら↓

息子7才のヒューマノイドを夫婦が引き取る話。

夫=工務店の社長。

妻=建築士。

 

 

前話 はこちらです↓

見えない羊(1)

見えない羊(2)

見えない羊(3)

見えない羊(4)

見えない羊(5)

 

では、どうぞ。

 

見えない羊(6)

 

 

カレーを前にしてうつむいている妻。

静かに微笑む息子。

 

オレは、ままよとばかりに、カレーをほおばった。

 

「うん?・・・うまい。これは店に出せるぞ」

「ホント?やったあ」

「ショウコも食べてみろよ。お前の好きな中辛だぞ?」

 

妻はゆっくりスプーンで一口食べた。

「・・・おいしい・・・かも」

 

オレとユウキは顔を見合わせて、にっこりした。

 

 

オレたちが完食すると、ユウキが皿を片付け始めた。

 

「ユウキ、美味しかったよ。ごちそうさま」

オレは心の底から、ユウキにお礼を言った。

 

「どういたしまして。

 ねえ、僕がお皿を洗うから、二人でおしゃべりしててよ」

 

「え・・・」

 

妻は、ユウキの申し出にちょっと驚いた顔をし、

オレのほうをちらりと見た。

 

オレは軽く咳ばらいをしてから、妻に言った。

 

「・・・あのさ。昨日は、ごめんな」

「なんのこと?」

 

「母親に向いてないって・・・あれ、言いすぎた」

「いいの。本当のことだもの」

 

「・・・ユウキに、コーヒー持ってけって頼んだの、
 オレなんだ。
 図面が汚れたの、ユウキのせいじゃないから」

「うん。カップ、私が弾いちゃったから。自業自得」

 

「・・・」

「・・・」

 

「なんかさ。こうやって話すの、久しぶりだよな」

「うん」

 

しばらく沈黙が続いた。


ユウキが皿を洗う音だけが、静かに響いている。

オレは、テーブルの上を指で軽く叩いた。

 

「ユウキさ。設定、変えられるんだろ?」

「うん」

 

「ショウコ、“優等生”にこだわるよな」

 

妻は、少しうつむいた。

「・・・そうね」

 

「どんな子なんだ?ショウコの言う、優等生って」

 

「・・・静かで、おとなしくて、失敗しない子。

 それから、大人の邪魔をしない子」

 

「ふうん。

 ・・・まあ、それもいいかもな。

 でもちょっと面白みがないかもな」

 

「でも。私はそうしてきたわ」

 

オレは言葉に詰まった。

 

話題に困り、台所の方を見ると、ユウキが手を拭いている。

 

オレは小さく手招きした。

「ユウキ、おいで」

 

ユウキは頷くと、テーブルのそばまで来た。

 

「お母さん。僕、座ってもいい?」

ユウキは、ショウコに確認を取った。

 

「・・・優等生って、大人の顔色、見ちゃうんだな」

と、オレが何気なくつぶやくと、妻は手で顔をふせた。

 

「・・・私、良い母親にも、良い妻にもなれない。

 つまんない、ダメな女なの・・・ごめんなさい・・・」

 

「待て待て」

オレは思わず苦笑した。

「オレ、そんなの求めてないから」

 

「・・・」

 

「ショウコはさ、・・・無理しすぎてたんじゃないか?

 優等生なんか、やめていいんだぞ?」

 

「・・・いいの?」

「全然OKだよ」

 

オレはユウキに声をかけた。

「なあ、ユウキ。お前だって、優等生は疲れるよな?」

 

ユウキは、小さく頷いた。

「うん。・・・僕、お母さんに、もっと甘えてみたいな」

 

「・・・」

 

「急に抱きついたりしたら、やっぱり嫌?」

 

妻は一瞬詰まった後、声を上げて泣き出した。

そして、ユウキをハグした。

 

「ごめん・・・ごめんね・・・ユウキ。

 無理をさせちゃって、ごめんね・・・」

 

妻のセリフは、まるで、

自分自身に言っているかのようだった。


「ショウコさ。そんな頑張んなくていいから」

オレは、妻のか細い背中をさすった。

「もっと適当でいいんだよ、オレの前ではさ」

 

「うん・・・うん・・・」

しゃくりあげながら返事をする妻が子どもに見えた。

 

 

 

(続く)