石和温泉からの帰宅後、介護ベッドに腰かけて、夫が何やらiPhoneでやっている。何をしているのかと思ったら、待ち受けにクリスマスツリーの前で撮った写真を設定していた。

「いいじゃん。私、まだマシに写ってて良かった。」

 私は元々写真が苦手で、目をつむっていたり、顔がこわばっていたり、うつむいてしまっていたりと、自然な笑顔の写真が少ない。夫はいつも変な顔をして写っていたことが無いし、むしろ、変な顔の写真を探す方が難しいぐらい。だから、誰かに撮ってもらった2人が一緒に写っている写真を、いつも私が台無しにしている感じがしていた。
 だけど、このツリーの前で撮ってもらった写真は、まだ割と自然な笑顔で写っていたから、私はとても嬉しかった。

「お前も待ち受けにすればいいのに。」

夫が珍しい事を言う。iPhoneの待ち受けをお揃いにするというだけでも珍しいのに、2人が一緒に写っている写真を使うなんて、本当にびっくりした。

 一瞬浮かび上がった「ちょっと嫌な感じ」を振り払うように、
「どうやってやるんだっけ?」
と、聞いた。夫は、さっき自分のをやったばかりだから、コレコレそこそこ…と、教えてくれた。夫の見ている前で、待ち受けをお揃いに変えた。

「できたぁー!」
「おぉー!いいねー!」
「おそろだー!」
「うん。うん。いいね!」

 夫と私の弾んだ声が部屋に響く。物凄く嬉しそうに、夫は何度も何度も頷いていた。無邪気にiPhoneを見せ合って、笑い合った師走の昼下がり。

 私はふと思い出していた。夫がまだ退職する前、定期入れに私の写真が入れてあったのを見つけた時の、ちょっと驚いた感じと、恥ずかしいような嬉しい感じ。履歴書に貼る為の小さな写真は、多分、15年位前の硬い表情をした若い私だった。そんなところにお守りみたいに入れてる事を、夫は言わなかったし、見つけた私も夫に言わなかった。

 けれど今度は違う。2人が写っている同じ写真を、お揃いでiPhoneの待ち受けにした。なんて恥ずかしい。照れくさい。けれど夫がそんな事をしたいと、私に言ってくれたことが嬉しかった。私にも、自分の写真をSuikaケースに忍ばせて欲しいと、もしかしたら思っていて、それが叶ったような気持ちになってくれたのかなと思った。

 そしてそれが、最初で最後の、お揃いの待ち受けになるとは、その時思ってもいなかった。