先日行われた「第1回武術ヘキサゴン オープントーナメント」はハードなルールにも拘わらず、出場者に大きな怪我がなく無事終了。
参加者の皆様に深く感謝申し上げます。
☆試合のダイジェスト動画
さて、改めて“武術ヘキサゴン”のコンセプトを述べます。
“伝統武術の技が必然的に使われるルールを創る”
例えば空手であればローキックやハイキックではなく、基本稽古や型稽古の正拳突きや上段受け、組手で出てこないような型の動きが、組手で効果的に使用されるようなルール設定です。
中国武術の場合、空手ほど組手競技が盛んではない為、空手ほど型(套路)と組手の乖離について問題定義が起きない印象があります。
しかし、散打のような中国武術家が集う大会では、現代格闘技を一切学ばず、普段学んでいる伝統武術の技術のみを使って勝つ事は不可能に近い印象です。
むしろ、積極的に現代格闘技の技術を学び、取り入れる選手の方が勝ちやすいと言えます。
空手の場合、伝統派にしてもフルコン系にしても、型と組手の形状や動きが異なる事に関して、現代では疑問にすら思わない傾向にあります。
あるいは、“型は身体の使い方を学ぶ為に行う”という考え方になっています。
実際、身体の使い方を学ぶという考え方は間違ってはいませんが、それならば必ずしも型である必要性がありません。
体操やダンスでもよい事になりますし、最初から組手の動きそのもので身体の使い方を磨いた方が合理的です。
他のスポーツで例えるならば、野球選手がソフトボールかハンドボールで身体の使い方を学び、また改めて野球の練習をするような話になってしまいます。
幾ら野球とソフトボールやハンドボールに共通する部分があったとしても、やはり別競技です。
最初から野球の練習をする方が遥かに合理的です。
空手の型と組手の違いは、野球とソフトボールより、もっと違いがあります。
空手家が組手の形や動きと大きく異なる基本や型を行う理由は、
「それが空手の稽古だから」
という他ありません。
つまり組手の為に基本や型を行うという考え方の場合、数あるトレーニング法の一つとなり、基本や型の技術を使おうという発想は無くなります。
現に伝統的な型稽古を行わないフルコンタクト空手の道場や団体もあります。
そして、型を行わない道場や団体は競技に特化している分、強い傾向にあります。
そうなると型の存在意義が薄れてゆく訳ですが、空手にしても中国武術にしても、試合で勝つ為に、伝統型とは別で試合用の技術を学ばざるを得ないのは、ルール設定が間違っているからだと言えます。
そもそも、空手に関しては、実戦観の違いで様々なルールの空手が生まれた歴史があります。
寸止めルールに対するアンチテーゼとしてフルコンタクトルールが生まれ、フルコンに顔面パンチが無い事へアンチテーゼとしてグローブ空手ルールが生まれ、投げや寝技が無い事へのアンチテーゼとして大道塾や禅道会が主催する総合系のルールが生まれました。
そのような歴史から、もっとも実戦的な格闘技は総合格闘技(MMA)という認識になったと言えます。
実際、武術の技術を公開すると、
「総合格闘技で証明してみろ!」
という意見が少なからず出てきます。
この意見に関して、
「武術には総合格闘技でも反則になる金的攻撃や目突き等がある。故に武術は総合格闘技で証明できない」
というような回答があります。
ハッキリ言って非常にお粗末な回答だと思うのですが、仮にその通りだと仮定します。
そのロジックでゆくと、
「総合格闘家が反則技(金的攻撃、目突き、頭突き等)を学べば最強になる説」
が生まれます。
武術家のアドバンテージが格闘技の反則技を学んでいる事にあるのならば、格闘家が反則技を学べば、確実に武術家以上に強くなるという話になります。
単純に強い弱いの話になった場合、
「総合格闘家が反則技を学べば最強になる説」
はトンデモ論とは言い切れない現実があります。
ここで一端整理しましょう。
「伝統武術の技術(主に型や套路の形や動き)」
「実戦論」
「単純に強い弱いの強弱論」
これらは共通する部分もありますが、ちゃんと分けて考えなければならない事です。
「実戦に近づくほど伝統武術の技が使える」
という考え方があります。
つまり、総合格闘技、あるいは“総合格闘技+反則技”≒実戦という考え方になります。
あるいは武器有り、多人数での乱戦から、戦争論、核武装論にまで話が飛躍する場合もあります。
このように考えてしまうと、伝統武術が効果的に使われる局面がわからなくなります。
そうではなく、
「伝統武術の技が必然的に使われる環境や状況とは?」
と、逆算的に考える必要があるのです。
具体的には
「ローキックやミドルキック、ボクシング的なパンチよりも、正拳突きや裏拳打ち、上段受けや下段払いが有効な環境や状況はあるのか?」
という事です。
例えば、相撲で仮にローキック、ミドルキック、ハイキックがルール上有りにしたとしても、それを相撲ルールの中で出しても不利になると想像できます。
相撲ルールで有効な技術は当然相撲技です。
そこで想像力を働かせ、私たちが相撲ルールを知らないと仮定します。
更に相撲ルールを知らない状態で、相撲技を見たとします。
そして相撲ルールを知らず、キックボクシングや総合格闘技等の現代格闘技は知っているとします。
そうなると、
「相撲技はあまり使えない」
と思うのでは無いでしょうか?
勿論、現代格闘技でも使える相撲技は多少はありますが、それよりもボクシングやレスリングの技術をメインに学んだ方が、遥かに合理的です。
そうなると、相撲技はよく解らない古いスタイルで、よしんば取り入れるにしても、あくまでサブ的、プラスアルファ的な捉え方をすると思います。
相撲ルールの全容を知り、相撲ルールで戦う場合、相撲技が最も合理的になります。
こんな理屈は当たり前と言えば当たり前です。
この例え話を、武術で語るとしたら、いわば武術ルールというものを、新たに考案する必要があるという事です。
つまりまだ誰も武術ルールを知らないのです。
この取り組みがまさに“武術ヘキサゴン”です。
相撲を例に出したのは、
“狭いスペース”
“場外負け”
“開始位置”
という環境によって最適な動きが変わる事が最もわかりやすいルールだからです。
これまでのルール設定の歴史に無かった要素は、このように環境によって戦い方が変わるという視点です。
その上で安全性も確保しなければならない為、防具が必要です。
しかし単に防具を付けてポイント制で競うと、やがてはポイントを取る為の動きに特化する為、伝統武術の技術との乖離が生まれます。
現に当初武術ヘキサゴンはグローブを付けて行っていましたが、その時はボクシング的な打ち方をする方が合理的になりました。
そこで顔を護る面を付けた上で、グローブを外し素手で行うと、掌打が多用されるようになりました。
グローブか素手かで、大きく戦い方が変わるのです。
他、安全性を確保しながら、伝統武術の技術が活きる環境設定を工夫して行きます。
この作業には、
・伝統武術の技術に対する知識
・実戦観
この二つに精通している必要があります。
どちらの認識が間違っていたり、見識が浅いと成立しない作業です。
幸いにも、おそらく世界一武術に詳しい山田英司編集長と、喧嘩術の林悦道先生の協力がある為、順調に作業を試行錯誤しながら進めてゆく事ができています。
何度も言いますが、武術ヘキサゴンのコンセプトは
“伝統武術の技が必然的に使われるルールを創る”
です。
「過激なルール=実戦的」「ルール制限が少ない=実戦的」
と考えている訳ではありません。
ここの部分の捉え方を誤解してしまうと
「総合格闘家が反則技を学べば最強になる説」
になってしまします。
このコンセプトを踏まえた上で、武術ヘキサゴンへの出場者を募集しています。
特に空手家を募集しています。
基本や型を使って戦うというスタイルの空手家が一人でも多く生まれて欲しいからです。
出場をご希望の方は川嶋までご一報ください。
「第2回武術ヘキサゴン オープントーナメント」
の開催日は未定ですが、2024年内には行いたいと考えています。
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