えー…
ヒグマが
あたしの住んでる町で
目撃されたと。
あ、町がけっこう大雑把に大きくて
クマの目撃情報は○○町北で、
あたしの住んでるのは○○町西。
でもJRひと駅。
10キロも離れてるだろうか。
目撃されたのは子グマだ。
親離れしてないクマなら
親クマもいるんだろうし。
えぇー…
市役所をラインの友達追加していて、
流れてくるのは
クマの目撃情報ばっかじゃん、
なんて言って
対岸の火事みたいにかまえていたら
とうとう足元に火が点いてしまった。
なにせ田舎だ。
こんな写真がフツーに撮れるし。
エゾシカが、
ぱからんぱからんと蹄の音をたてて
横断歩道まで信号無視で
元気に歩道を走り去るし。
キタキツネだってそのへんを闊歩する。
こんなメルヘンチックな写真も撮れるのだ。
(白馬と栗毛の馬が水辺で草を食むの図)
クマがでたっておかしくないよねきっと。
ラインのクマ目撃情報より早く知った。
同僚だ。
今日は
なんだか困りごとが多い日だった。
申し込み対象外のお客さんに、
添付するいろんな書類を用意させ、
申し込みに来させてしまったみたいだ。
「あの…これがこうですと…
この申し込みは対象外で…」
えーなんですって!××から行ってって言われてきたのよ書類何が必要かここに電話したら今持ってきたものぜんぶってゆったのよきのう夜中までかかって探したのよ大変で大変で本人にゅういんしちゃってあたしのやったことぜんぶむだだったのぉー?
確かに、そのお客さんは手提げの
紙袋2つに書類をいっぱいに詰め込んでいた。
ひとしきりお伺いし、次に
身体の不調の話になり、
こんどは別の話になった。
かくかくしかじかで文句を言いに行くから、と
某公共機関がどこにあるか
教えろと言う。
そんなの自分で探してくださいと
言いそうになったのを
それを言ったら長くなるから
地図をプリントアウトして渡す。
長々ごめんなさいねぇ、と
お帰りになる。
なんだか疲れて自席につくと、
火が点いたように
同僚その1が
ガハハハハハッといつもの下品さ
全開で破顔一笑である。
「○○町でクマ出たってさぁ!!」
どこから聞いたのかは知らない。
仕事の合間に眺めてるスマホのラインに
入ったのかも知れない。
一体何がたのしいのだ。
私は机の上に溜まっていた書類を
黙って片付ける。
同僚は嬉しそうだ。
クマが出たのが嬉しいのか?
そんなに。
それとも。
クマが
私の住む町に出たのがうれしいのか?
そのうちにまた、窓口に来客。
戻って来ると、
まだクマ出没の話をしている。
同僚その2が、臨時アルバイトの女性に
静かに言う。
「○○町に住んでる人、
生きた心地がしないでしょうねぇ」
同僚その1もその2も、
私が○○町に住んでいる事を知っている。
それで馬鹿笑いして、
私に聞こえるのも構わずに
「生きた心地がしない」発言だ。
私の味わっている恐怖を高みの見物か。
いいご身分だな。
(最近割とこの言葉が気に入っている)
私って、嫌われてるんだなあ。
クマ出没の恐怖より、人の心って恐怖だ
と、思った。
私、被害妄想かな。
こんなクマならかわいいが。