久しぶりに

この今様(いまよう*)読んだ。

ああこれ、海辺だっんだ台風

 

我が子は十余に成りぬらん 

巫(かうなぎ)してこそ歩(あり)くなれ

田子の浦に汐踏むと

いかに海人(あまびと)集ふらん
正(まさ)しとて 

問ひみ問はずみ嬲るらん

いとほしや

(『梁塵秘抄』364)

 

*今様

「現代風・当世風」の意味の古語ですが、

ここでは「流行り歌」。12世紀くらいの流行り歌を書き留めて置いた法皇様が居た。(法皇は帝を退位した人)その歌謡集が今に残っているのだ。歌詞だけ残ってて、節は残ってない照れ

 

「かうなぎ」と古い書き方しましたが

「コウナギ」と読んで

「かんなぎ」の音が変化した形。

「かんなぎ」は

神社で神様に仕える巫女さん

(巫は女のミコ、覡は男のミコと、

性別で分けて書くらしい)

だけれども

ここは神社に属している巫女さんじゃ

なくて、

「歩き巫女」のことだそうだ。

あちこち放浪して、

神降ろししたり予言したり

口寄せしたり、

んでもって、

客もとる、という業態もあったそうな。

大きな由緒ある神社に参拝したあと、

「精進落とし」に

こういう巫女さんとこ行く男もいた。

ろくでもない事である。

 

もちろん、祭祀を司る神職が

共同体に居なくて、

その時期になると祭祀のために

訪れる歩き巫女もいたのだけど。

 

「海人」は漁師。

漁師たちが寄ってたかって

お前のご託宣はよく当たるなあと

いろいろからかって

ちょっかい出してきたりして

なぶりものにされるのだね

ああ可哀想に

 

みたいな感じ?

 

成りぬらん 歩くなれ

自分の子供のことなのに

「推量の助動詞」が使われている。

どんな境涯、どんな親子なのかな。

 

離れ離れになって

長い時間が経ってるんだろうか。

なんで離れ離れになったんだろうか。

自分の子供のことを

噂話でしか聞けないって、

どんだけ不安でどんだけ哀しいだろうか。

この今様は、

母親の立場で語られていると

考える解釈もあって、

この母親も娘と同業で、

我が子が受けるであろう仕打ちが

分かるだけに

なおさらたまらない気持ちになるだろう

っていう解釈も

あるみたいだ。

この「歩く」って、

歩行っていうことじゃなくて、

放浪とか、漂泊とか、そんな意味だ。

 

以前、「朝日のあたる家(朝日楼)」(*)が、

アメリカの民謡だって知って

とてもショックだった。

こんな歌が民謡にある国って、

一体どんな国なんだ?

って思った。

 

でも日本も結構すごいんだなあ。

久しぶりに読むと、若い頃には

分からなかったことが分かったりする。

中学校上がる位の我が子が

今どこにいるのか分からない、

でも、生業を持ち、それはあまり

素性のいい仕事じゃない。

十余(じゅうよ)は12〜13歳くらいだ。

こんな娘が男にいたぶられながら

放浪するのだ。

 

歌に残ってるっていうことは、

それを歌えば共感する人が

いるってことだろう。

エンターテインメントの一つだよね。

こんな悲惨な境涯の親子の唄を

愉しみとして消費する心性があったワケだ。

むかしの日本人には。

えらいこっちゃなあ。

 

この間『夜明けの唄』の

一部分を読んだ時

(期間限定の無料公開が7話までだからだ照れ

南の覡エルヴァ様の美貌と

アルト君の献身にいっぱいいっぱいで

しばしの間気づかなかったけど、

 

あれ?なんでかんなぎが戦うんだ?

 

と冒頭の今様を読み返してみました。

(この言葉が使われた古典は

これくらいしか知りません照れ

「かんなぎ」って、現代でも使われる言葉?)

 

なーんとなく、この今様と、

『夜明けの唄』の海辺の様子が

ヘンに響き合う。

「海人」をバケモノに変えれば

覡(かんなぎ)は、

13歳くらいから海辺を哨戒し、

剣を振るってバケモノと戦って

たいていは数年で命と任を終える。

親は我が子を取られ、我が子が

いつ覡になったのか、

いつ死んだのかさえ分からない。

ほんとに「いとほしや」である。

 

※『夜明けの唄』の

覡の制度についてはこちらにちょっと照れ

 

結局この今様よんだからって、

分かるワケじゃなかったけど、

少女と幼女の間みたいな女の子が

屈強な男達に

「嫐られながら」生きて行かねば

ならないのは、

これも闘いに違いないよね…

 

久しぶりにこの古典に触れる機会を

与えてくれて、ありがとね照れ

覡様おねがい

 

きょうびの覡は化け物とも戦うのだ。(BL漫画のだとは思えんコマだ)南の覡さまは、美しいぞーラブラブラブんでもって、メチャクチャおしゃれだ。

 

※参考

岩波書店『日本古典文学大系』 小学館『日本古典文学全集』 筑摩書房『定本 柳田国男集』 紅書房『梁塵秘抄漂游』(尾崎左永子)

 

※朝日の当たる家

浅川マキ訳詞・ちあきなおみの唄が秀逸。YouTubeで観られます。

朝日の当たる家とはニューオリンズにある娼館の名前。

娼婦に身を堕とした女が我が身を嘆き、こんな風になってはおしまい、と妹に語る。