鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2024年7月9日号)

*岸田総理と安倍元総理

 7月7日は都知事選の投開票日だったが、東京都千代田区平河町の都市センターホテルでは、「安倍晋三元総理の志を継承する集い」が開催された。そこで岸田総理は、安倍元総理の志は「デフレからの脱却」であり、「今それは成し遂げられつつある」旨を強調した。

 あたかも自分が安倍元総理の志を継いでいるかのような論旨を展開したのには正直、辟易した。

 

 岸田氏は、2021年に安倍前総理の支持を得て総理に就任した。だが翌年2月28日に安倍元総理はテレビ番組で「核共有について国内でも議論すべき」と述べたのに対し、翌月7日に岸田総理が参議院予算委員会で「核共有、非核三原則に相容れず、考えない」と発言した。

 核共有とは、核シェアリングとも言うが、米国の核兵器を日本が借り受ける事である。安倍元総理がなぜこれを議論すべきとしたのかと言えば、中国、北朝鮮が核兵器の増産態勢に入り、東アジアで急速に核抑止の均衡が崩壊しつつある現状において、均衡を回復する唯一の手段が核共有だからなのである。

 

 日本独自の核武装論を強調する人たちがいるが、政治的にも法律的にも軍事的にも、その準備は全くなく、これから準備に入ると言うのなら実現するまでに核抑止の均衡は完全に崩壊してしまうことは必定だ。もはや時間的に不可能だと言っていい。

 核共有であれば、非核三原則を見直すだけで明日にでも実現できるのである。

 

 安倍さんの最大の関心事は安全保障であり、いかに日本の平和を守るかであり、経済は二の次であった。岸田総理が「核共有を考えない」と言った2022年3月7日のこの瞬間に安倍元総理が岸田総理への支持を内心、撤回したと見て間違いあるまい。

 岸田総理が安倍元総理の志を継いでいるかのような言説はデマゴーグとしか言いようがない。

 

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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