鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
(2023年3月9日号)
*破綻したインド太平洋戦略
1日、2日にインドで開かれたG20外相会合に林外相は参加しなかった。この会合にはロシアのラブロフ外相、中国の秦剛外相も参加した世界的に現在、最も重要な外相会合であった。その会合に日本の外相は欠席したのである。
欠席の理由は、参議院の予算委員会の審議と重なった為としている。確かに国会の予算審議には全閣僚の出席が慣例となっているが、この慣例は与野党の合意に基づいており、例外もまた与野党の合意があれば可能なのである。
ところが、林外相は例外を認めるように与野党に働きかけた形跡がない。要するに林外相は出席したくなかったのである。なぜ林外相はこの重要な会合に出席したくなかったのか?それは重要な会議であるがゆえに、出席したくなかった。自信のない受験生が試験を欠席するのと同じ心理である。つまり怖気づいたのだ。
日本は今年G7会合の議長国だが、G7は西側先進国の会合である。東西対立が再び先鋭化しつつある現在、G20会合の方が東西融和にとってはるかに重要である。2019年のG20大阪サミットでは、安倍総理のもと、トランプもプーチンも習近平もモディもマクロンも協調姿勢を示したのだ。
今回のG20外相会合は、2007年に安倍総理がインド太平洋戦略を提唱したインドで行われた。インド側も当然、日本がインド太平洋戦略のもと、主導権を発揮すると期待をしていた。中国の秦剛は外相就任後初の国際会合であり、林外相は先輩として機先を制して主導権を握れた筈だった。だが彼にはその自信がなかったのだ。日本が対中主導権を放棄したことを国際社会に宣言したようなものである。
6日、台湾の蔡英文総統が数週間以内に米カルフォルニア州でマッカシー米下院議長と会談すると報道された。マッカシーはかねてから台湾を訪問すると公約していたから、これは、蔡英文が彼の訪台を拒否したことになろう。
昨年8月に当時の米下院議長のペロシが訪台したとき、中国は台湾を包囲する形で軍事演習を行った。もし再び、下院議長が訪台すれば、そのとき以上に軍事緊張が高まる事を知りながら、マッカシーは訪台を公約し、台湾も歓迎の意を示していた。
それが、なぜ突如変わったのか?それは、林外相のG20欠席により、日本にもはや中国を抑え込み台湾を助ける意欲がないと台湾が判断したからに他ならない。安倍総理が提唱したインド太平洋戦略は破綻したのである。
軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)
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