鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2022年12月20日号)

*中朝露に敗北した安保3文書

 16日に閣議決定された国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画いわゆる安保3文書を、歴史的転換などと評価するのは大間違いである。真相は中国、北朝鮮、ロシアのいずれにも対抗できない3方敗れの陣を提示した歴史的敗北の文書である。

 

 まず注目すべきは陸自の定員数である。現行15万1000人を14万9000人に減員して、空自と海自に2000人を割り振る。さらに現在2000人に満たないサイバー部隊を将来的に2万人体制に拡充する。

 つまり陸自の実戦部隊の人員が削減されるのである。ウクライナでの戦闘を見れば明らかなように、戦闘の中心は地上戦であり、陸上兵力が戦争の帰趨を決定する。陸上兵力の損耗は最も激しく、その兵員数が勝敗を決めると言っても過言ではない。

 ロシアは19世紀から北海道の占領を目論んでおり、日本も常に北海道防衛に力を注いできた。この陸自の実戦部隊の人員削減は、ロシアの北海道侵攻を容易ならしめること必定である。

 

 次に問題なのは北朝鮮への対処だ。1994年に米国は、北朝鮮の核開発を阻止すべく北朝鮮を空爆する計画を立て、日本に協力を求めた。日本が協力を拒んだため、計画は中止となった。青森県の三沢に米空軍と空自の基地があり、そこから出撃する計画だった。

 現行の法制度では、米軍機に空自機が随伴して北朝鮮を空爆することはできない。今回の改定でも、やはり出来ないままである。米国は同盟国の参戦なしに、この種の作戦を遂行しない。つまり北朝鮮の核開発の阻止は、できないことが確定したのである。

 

 最後は中国だ。中国は沖縄、南西諸島を標的にして中距離核ミサイルを配備している。米軍が台湾防衛のために沖縄から出撃するのを阻止する狙いである。対する米国は同様の中距離核ミサイルを沖縄に配備して抑止均衡を保とうとした。

 これがいわゆる核シェアリングであるが、岸田総理は非核3原則を見直さないと言明し、今回の3文書でも核シェアリングは不可能なままである。つまり、米軍による台湾防衛を3文書は阻止してしまったのである。

 

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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