鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2022年8月17日号)

*2022年、夏の敗戦

 2日、米国のペロシ下院議長が台湾に到着するや、中国は台湾周辺に軍事演習区域を設定した。その一部に日本の排他的経済水域(EEZ)が含まれていたので、日本が懸念を表明したのだが、それに対する中国の返答は驚愕すべき内容である。

 

 中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)報道局長は3日「関連海域は未画定で、日本の見解は受け入れられない」つまり日本のEEZを認めない姿勢をあらわにしたのである。そして4日、中国軍は与那国島の海域に5発の弾道ミサイルを撃ち込んだのである。

 与那国島の漁民は漁業活動を中止せざるを得なかった。EEZとは自国民の経済活動が最優先される海域を指す。つまり日本国民の正当な経済活動に中国軍により損害が生じたのである。

 

 しかも中国は、日本のEEZを認めないとして、そこにミサイルを撃ち込んだわけだから、事故でも過失でもなく確信犯による明白な侵略である。普通の国であれば、その海域に軍艦を派遣し、中国のEEZにミサイルを5発撃ち込んで報復したであろう。

 また同時に尖閣諸島の接続水域に居すわる中国海警の艦艇も軍艦により強制排除されたはずである。だが、それは普通の軍事力を持つ普通の国の話であって、日本は憲法に縛られて普通の軍事力を持っていない。従って普通の国の普通の話は通用しない。

 

 だが、普通の国ではなくとも安倍政権においては、北朝鮮が日本のEEZにミサイルを撃ち込めば、ただちに国家安全保障会議(NSC)を開催した。ところが今般、岸田内閣は、外務省が電話で抗議をしただけで、NSCすら開催しなかった。

 そして浜田防衛相がオースチン米国防長官と電話会談して、中国のミサイル発射を非難したのは、発射から12日後の昨日である。中国の軍事恫喝の前に、日米同盟はもはや風前の灯火(ともしび)だと言っていいだろう。

 

 前号で「空母レーガンは一触即発の事態を避けるために、台湾から遠ざかった。96年台湾危機で米国は中国に勝ったというのなら、今般は敗けたとしか言いようがない。」と書いた。敗けたのは米国だけではない。日本も敗けたのである。

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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