鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2022年7月23日号)

*安倍氏国葬の戦略的意義

 故・安倍晋三元総理の国葬が9月27日に日本武道館で執り行われることに決定した。この戦略的意義は途方もなく重要だ。これは、国葬に反対している人たちの顔ぶれを見ても明らかだ。日本の戦略的位置など考えたこともない人ばかりだ。

 

 前回、元総理の国葬が執り行われたのは1967年吉田茂氏の死去に際してであったが、当時は佐藤栄作総理のもと、日本は高度経済成長を謳歌していた。佐藤内閣は憲法改正を事実上断念し、非核3原則を表明し、軽武装、経済優先の政策を取った内閣である。

 そして、この政策は後に吉田ドクトリンと命名され日本の外交の基本的方針として定着することとなった。吉田氏は米軍占領下の総理在任中、米国からの「憲法を改正して再軍備せよ」との要求を拒否し、占領終了後も安全保障上の対米従属路線を選択したのである。

 

 しかし、吉田氏は晩年、憲法改正の必要性を当時の佐藤総理に強調していた。佐藤総理も憲法改正の必要性は理解しつつも高度経済成長の成果に幻惑され、占領下の吉田政権の置き土産である安全保障上の対米従属政策を軽武装、経済優先と言い換えて継承したのである。

 軽武装、経済優先という吉田ドクトリンの図式は昭和の時代には有効だったが、平成に入り米ソ冷戦が終了した1990年代以降は、まったく成り立たない非現実的なドクトリンとなった。米国が世界の安全保障の責任を負えなくなったからである。

 

 安倍政権は戦後レジームからの脱却、自由インド太平洋構想を掲げ、世界の注目を集めた。それは日本が吉田ドクトリンの亡霊から解放され、世界平和への積極的な貢献を意味するからだ。

 安倍元総理の突然の死を欧米は、国際安全保障上の悲劇として受け止めた。自由インド太平洋構想の瓦解が間近に迫っているからだ。自由インド太平洋構想の瓦解は第3次世界大戦を意味するのだ。

 安倍氏の国葬は日本が自由インド太平洋構想の瓦解を食い止めるとの強い意志を世界に発信するために極めて重要なのである。

 

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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