鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年12月8日号)

*台湾有事は日本有事

 安倍元総理が「台湾有事は日本有事」と発言して話題となっている。この発言は、一部では「中国が台湾に侵攻すれば、日本は台湾防衛のために戦う」という決意表明のように捉えられている。私もそうであってほしいと願っていたが、残念ながらそうではないようだ。

 安倍氏は、この発言を敷衍(ふえん)して「中国が台湾に侵攻すれば、日本にとって重要影響事態である」と述べている。ところが7月に当時、財務相であった麻生太郎氏は「中国が台湾に侵攻すれば、日本にとって存立危機事態である」という趣旨の発言をしている。

 

 存立危機事態とは端的に言えば、自衛隊が米軍とともに戦う事態であり、重要影響事態では、自衛隊は米軍の後方支援を行う事態である。つまり重要影響事態では、自衛隊は米軍の後方支援をするだけで、戦闘はしない。

 両者の発言の相違は明らかだろう。7月に麻生氏は、台湾有事に際して、自衛隊は米軍とともに戦うと述べたのに対して、今月、安倍氏は、自衛隊は米軍の後方支援をするだけで戦わないと述べていることになる。

 安倍氏と麻生氏は極めて親しく、また二人とも安全保障および国際情勢に精通している。従って両発言の相違は決して偶発的な相違などではない。むしろ当局と両者が綿密に調整した上での、日本の対中姿勢の変化を示していよう。

 

 ではなぜ日本の対中姿勢が変化したのか、と言えば米国の対中姿勢が変化したからであろう。11月のバイデン、習近平のオンラインによる米中首脳会談は、米国側がお願いしてようやく実現したものだ。

 その5日前の11月5日に、ブリンケン国務長官は台湾有事に際して「米国は同盟国とともに行動を取る」と発言した。つまり同盟国が行動を取らなければ、米国も行動しないと中国に確約して、米中首脳会談は実現したのだ。

 

 台湾に一番近い米軍基地は沖縄にあるから、米国にとって台湾防衛上、最も重要な同盟国は日本である。従ってブリンケンは「日本が戦わないのなら、米国も戦わない」と言っているわけだ。安倍氏の発言はこれに呼応して「日本は戦わない」と言っていることになろう。

 安倍発言はブリンケン発言の1か月後だが、その趣旨はブリンケン発言の時点ですでに中国側に伝えられていたものと思われる。そうでなければ米中首脳会談を中国は直前にキャンセルしたはずである。

 

 昨日の米露首脳会談でバイデンはプーチンに「ロシアがウクライナに侵攻したら経済制裁をする」と述べた。つまり米国は軍事行動を取らない。もはや米軍は戦えないのだ。バイデン政権の安全保障政策は完全に崩壊したのだろう。

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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