鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年11月26日号)

*評伝 福田赳夫

 福田赳夫(ふくだたけお)と言っても昨今の若者には、響かないだろう。2007年に総理になった福田康夫氏の父と言った方が、通りがいいかもしれない。しかし政治家としての福田赳夫の実績は息子のそれをはるかに凌駕(りょうが)している。

 「評伝 福田赳夫」が6月に岩波書店から出版された。五百旗頭真氏の監修のもと3人の筆者による共著である。約700ページ、本体価格4800円という外見だけでなく、文句なく中身の濃い大著である。

 

 福田赳夫は、いまだに世評によく上がる田中角栄のライバルとして、1970年代に勇名を馳せていたが、本書は1929年に勃発した世界大恐慌からの経済状況に対処してきた若き大蔵官僚の姿を、第2次世界大戦を背景にして鮮やかに描き出している。

 昨今、積極財政論と財政均衡論との論争が騒々しいが、本書を読めば、そうした論争は戦前からあり、財政均衡論に固執しがちな財務官僚を常に政治家が説得をして景気浮揚策を実現してきたことが分かる。

 

 しかし福田赳夫は単なる経済通の政治家ではなかった。この分厚い本の中で、最も鮮やかなエピソードは三島由紀夫が死の前年に当時、蔵相であった福田と対談したときの話だ。そこには経済優先で荒廃する世相への共通の危機感が伺えるのである。

 私は福田赳夫が総理になったときに、教育勅語の復活を言い出したのをよく覚えている。当時学生であった私にとっては、いかにも唐突な発言だっただけによく覚えているのだが、今にして思うと、三島由紀夫の自決の影響がここにあったのではなかろうか。

 

 福田は三島とは方法こそ違え、共通の危機感をいだいて戦後体制の変革に努めていた。その戦後体制は結局のところ、米国の保護のもと変革されることなかった。そして米国の衰退と中国の台頭により戦後体制そのものが崩壊を目前としている現在、一読に値する書である。

 明日、午後9時から伽藍みーTUBEで、トークライヴを生配信する。本号のテーマや昨今の内外情勢、その他の質問にも気楽な形でお答えするので、お見逃しなく!

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 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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