鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年11月19日号)

*対中包囲網の瓦解

 15日の米中首脳会談の最重要課題は中国の核軍拡であった。台湾やウィグル人権も議題に上ったのは間違いないが、米国が中国と喫緊に話し合わなければならない問題は中国の核兵器の増強問題である。

 3月に米軍の偵察衛星は中国が砂漠地帯に数百基ものICBMサイロを建設し始めたのを発見した。これらが完成すれば米国は中国の核ミサイルの脅威に日々おびえて暮らさなくてはならなくなる。

 

 米ソ冷戦期の米国はソ連の核軍拡に対して核軍拡で応じてきた。つまり核戦争も辞さずとの姿勢で臨み、ソ連と核兵器軍拡競争を演じてソ連を財政破綻に追い込んだのである。だが今の米国にそんな気力も財力もありはしない。

 もはや気力も体力も衰えた老バイデンは、習近平に核軍拡をやめてくれと、お願いするしかなかったのである。これが今回の米中首脳会談の本質である。そして米国の弱体ぶりを見透かした習近平は、敬老精神のかけらも見せず、傲慢にこれを拒否した。

 

 侮辱されたと感じたバイデンは報復措置を検討しているとのことだが、その報復措置とは精々(せいぜい)のところ北京オリンピックの外交ボイコットなのだ。外交団は送らないけど選手団は送ると言うのでは、中国はさして痛みを感じないであろう。

 日本では人権侵害法制定が見送りになった。人権侵害法とは、人権侵害に関わった外国当局者に制裁を科す法律で、中国がウィグルやチベット、香港などで行っている人権侵害を牽制する狙いがある。

 欧米ではすでに制定されており、日本にも導入が求められていた。岸田総理も制定に前向きであったのが、突然の方針変更である。日米の首脳ともに対中腰砕けの姿勢を示したことは、対中包囲網の瓦解を象徴するものではあるまいか?

 

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

プロフィール・バックナンバー等は公式ブログを参照。下記をクリック

https://ameblo.jp/karasu0429/

*このブログは、メールマガジンで配信されています。どなたでも無料で登録できます。下記をクリック

https://www.mag2.com/m/0001690052.html