鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年10月14日号)

*クーリエ:最高機密の運び屋

 映画「クーリエ:最高機密の運び屋」を見た。米ソ冷戦期の1962年に起きたキューバ危機の裏面史を描いたサスペンスドラマである。キューバ危機を描いた映画では、当時の米大統領ケネディに焦点を合わせた「サーティーン・デイズ」(2000年公開)があるが、「クーリエ:最高機密の運び屋」は当時のソ連側の動きに重点が置かれている。

 

 キューバ危機は米ソ核戦争、勃発の瀬戸際まで行った事件だが、米ソだけでなく東西両陣営が戦争準備の態勢を取った。日本の自衛隊も同様で、私が入隊した1980年代にも当時の事は語り草になっていた。

 後にソ連内部に、米国に機密情報を流したソ連軍幹部がいたことが明らかになったが、この映画はその幹部から機密を受け取り運び出した英国人の物語である。私はかねてから、ケネディのスタンドプレーのように言われていたキューバ危機に疑問をいだいており、この裏面史には得心が行った。一言でいえば、指導者がいかに優秀であろうとも、情報活動なしには正しい決断は不可能なのである。

 

 60年前を描いた映画を私は現在の日本で圧倒的な迫真性をもって見た。1962年10月、米軍の偵察機はキューバにソ連軍が核ミサイル基地を建設しているのを発見した。これがキューバ危機の始まりだったが、実は今年すなわち2021年3月に米軍の偵察衛星は新疆ウィグルに中国軍が米国を射程に収める核ミサイル(ICBM)基地を建設しているのを発見したのである。バイデン政権の外交・安保の慌ただしい変化はこれに端を発している。

 これについては11日に出版された共著「2023年台湾封鎖」の拙論を参照していただきたいが、要するに現在、キューバ危機ならぬ台湾危機が進行しており、自民党の選挙公約に防衛費の大幅増額が盛り込まれたのは単なる偶然ではない。

 この映画は秀作である。是非ともご覧あれ。

クーリエ:最高機密の運び屋 - 作品 - Yahoo!映画

 

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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