鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年9月3日号)

*菅総理、辞意表明の裏側

 菅総理が自民党総裁選不出馬を表明した。事実上、総理の辞意表明である。突然の辞意表明には誰もが驚き、マスコミはこの辞任劇の裏側を探ろうとするだろうが、この政治劇の舞台裏は意外に単純なものだ。

 菅総理が昨日まで出ると言っていた総裁選に突如出ないと言い出したのは、昨日まで勝てる見込みがあったのに、一夜にして、その見込みが無くなったからだろう。それは、自民党の最大派閥、清和会の支持を失ったからに違いない。

 

 清和会は安倍前総理の出身母体であり、事実上の安倍派と言ってもいい。菅総理は安倍前総理から禅譲されて総理に就いたわけで、安倍前総理の支持を失えば、当然、清和会全体の支持を失い、再選の見込みは無くなるのである。

 安倍前総理は菅総理に禅譲した手前、菅政権支持を繰り返し表明してきた。その姿勢に変化が見られるようになったのは、ほんの2週間前のことだ。横浜市長選の敗北などは、事前に予想されていた事であり、安倍前総理を突然動かす要因にはなりえない。

 

 安倍前総理の最大の関心事は安全保障であり、菅総理に託したのも安保政策の充実であった。新型コロナ対策については、安倍政権と大同小異であって、安倍氏が菅氏にその責を問うことはない。

 安保政策において菅政権は安倍政権の継承に努めてきたが、先月、アフガニスタンで致命的な失敗を犯した。8月15日のカブール陥落に際して、日本の大使館の日本人職員12人は現地スタッフや在留邦人を置き去りにして、英軍機に便乗してドバイに避難したのである。

 

 米国はもちろん、英仏独など各国は、軍用機を派遣し自国民や関係者の救出に努めていたのである。これは安全保障上、まことに瞠目すべき大事件なのだが、日本の野党やマスコミの大半は問題にすらしなかった。

 これが問題になったのは8月19日、自民党の外交・国防部会において青山繁晴議員が糾弾してからである。政府はにわかに方針を変え、4日後には自衛隊機を邦人救出のため出発させた。

 

 だが結局、救出出来たのは日本人一人とアフガン人14人であり、出国を希望していた日本人や関係者計約500人は、またしても現地に置き去りにされた。自衛隊機の派遣が遅すぎたのである。

 これは菅政権の安全保障上の大失敗としか言いようがなく、安全保障に敏感な安倍前総理の逆鱗に菅総理は触れたと見て間違いあるまい。

 

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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