鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年8月12日号)

*米軍撤退の悲劇

 アフガニスタンから米軍が撤退するに伴い、反政府勢力タリバンが支配地域を急拡大させている。米軍が育成したアフガン政府軍は30万人、最新の装備を与えられているが、士気は極めて低く、各地で殆ど戦うことなく退却または降伏をしている。

 米軍撤退を決断したバイデン大統領は撤退を見直す考えはなく、「アフガン政府軍は戦う意思を持たなくてはならない」と冷たく突き放した。米軍の通訳など米軍協力者とその家族約2万人の空輸は始まっているが米軍撤退完了の8月末までに全員の空輸は不可能な情勢だ。各地で既に米軍協力者が次々に殺害されている。

 

 前号でも触れたが、こうした状況はベトナム戦争末期に南ベトナムとカンボジアから米軍が撤退したときに見られた。1975年当時、私はまだ学生だったが、米国大使館の屋上から米軍ヘリで脱出しようと群がるベトナム人達の写真を見て衝撃を受けた覚えがある。

 まさに歴史は繰り返す。だがこうした感慨は新たな不安を呼び起こすことになろう。過去に南ベトナムやカンボジアで起きた悲劇が今、アフガニスタンで繰り返されているのなら、米軍が駐留する日本でも将来、悲劇は繰り返されるのではないか。

 

 政府は中国の脅威に対抗するため、防衛費の増額の検討に入った。むろん、これは必要なことだ。自衛隊の予算は今まで、必要な額の半分も付いていなかった。大幅な防衛費の増額が必要であることは論を待たない。

 だが、問題は予算や装備だけではない。南ベトナム軍もアフガン政府軍も最新の装備を与えられていながら、米軍が撤退するやあっけなく崩壊した。いつか米国の大統領が「日本国民は戦う意思を持たなくてはならない」と冷たく突き放す日が来るのではないだろうか?

 

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

プロフィール・バックナンバー等は公式ブログを参照。下記をクリック

https://ameblo.jp/karasu0429/

*このブログは、メールマガジンで配信されています。どなたでも無料で登録できます。下記をクリック

https://www.mag2.com/m/0001690052.html