軍事ジャーナル(6月24日号)

 北朝鮮が漸く中距離弾道弾ムスダンの発射実験に成功した。ムスダンは既に実戦配備されており、開発途上ではない。だから6発撃って、漸く成功したと大喜びしているのは奇妙な光景である。既に配備されている内の6分の5は不良品だと証明されたようなものなのだ。
 北朝鮮外務省の副局長は「米国がどんな核戦争を強要しても堂々と相手ができる」と北京で記者に語ったが、ムスダンがほとんど使い物にならないと証明されたのに、どうしてこうした発言が出るのか?

 ムスダンは2010年10月10日、朝鮮労働党65周年の軍事パレードで初めて披露された。このとき、金正恩は父、金正日総書記の横で閲兵している。金正日はこの前々月、中国を訪問し、その5か月前にも訪中し、子息、金正恩が後継者として承認されるべく中国首脳に挨拶に回っていた。
 つまりムスダンは中国からの金正恩への贈り物で、中身は中国製と見てよい。当初からグアム島の米軍基地を攻撃できる最新式のミサイルと鳴り物入りで報道されたが、程なくして北朝鮮内部から「それほどの性能ではない」という情報が流出した。
 早い話が、中国は欠陥品を供与したのである。これは中露がよくやる手で、最初、無償で製品を供与し、後から莫大な修理改修費を要求して元を取る、武器だけでなく民間ビジネスでもしばしば見られるボッタクリ商法の一つである。

 だが、北朝鮮の経済状況から見て高額な修理改修費を払える筈はないから、欠陥品をそのまま実戦配備したのであろう。その後、核ミサイル開発を巡って中朝関係がこじれて、北朝鮮は中国から本格的な経済制裁を受けるに至った。
 ところが、今年になって米中の南シナ海の覇権争いが表面化した。そこで経済制裁を解除して貰いたい北朝鮮は、一計を講じて「もし、米中が戦争になったら北朝鮮は中国の側に立ってグアム島の米軍基地を攻撃してもいい」と密かに提案した。
 これが今年の4月15日、祖父金日成の誕生日にムスダンを発射した理由だ。もとより欠陥品だから失敗して当たり前。だがもし、修理改修されれば米軍にとって圧力になることに、中国はすぐに気が付く。
 
 米軍攻撃機A10が4機、南シナ海スカボロー礁付近を飛行したのが4月19日、これを米軍が発表した翌日の4月28日に、北朝鮮は再びムスダン2発を発射、無論失敗だが、北朝鮮が何を言おうとしているか、中国に取ってはもはや一目瞭然だ。
 5月31日、北朝鮮の労働党副委員長が、訪中するが、その朝にもムスダン2発やはり失敗、翌6月1日、副委員長は中国の習近平主席と会談した。「習主席は北にミサイル発射の自制を促した」と公表されたが、経済制裁を実施している段階で習が北の幹部に会えば、制裁解除以外の話題がある訳はない。
 おそらく北朝鮮は6か国協議再開に合意し、中国はムスダンの修理改修を約束したのだろう。果たして22日、6か国会議が北京で開催され、その日、ムスダンの成功が確認された。
翌23日、朝鮮中央通信は金正日が側近らと共に大喜びする写真を掲載した。偽らざる心境であろう。