軍事ジャーナル(10月5日号)

イラク・アフガニスタン戦争が終息に向かっている。もちろん米軍が撤収した後、再び混乱に陥る公算は極めて高いが、米軍としては独裁政権を打倒しともかくも民主的な政府を樹立した事をもって軍事目的は達成された。
 独裁政権の打倒という初期の軍事目的の達成は、驚くべき素早さで達成された。米国の正規軍の精強さを改めて世界に認識させたと言っていい。リビアの独裁者カダフィーなどは震え上がって親米路線に転換したし(それでも結局は打倒されてしまったが)、中国、ロシアの軍部は米軍の軍事情報戦略(RMA)に驚嘆し、自軍への導入を直ちに決めたほどだ。
 だが政権打倒から民主政府実現までの道のりは、それまでとは打って変わって長く厳しいものだった。皮肉な事に、テロリスト撲滅のために独裁政権を打倒した筈なのに、政権が打倒されてから寧ろ米軍は、テロとの戦いに悩まされるようになったのだ。
 テロとの戦いは、基本的に見えない敵との戦いである。正規戦が正規軍同士の公然たる戦いであるのに対し、非正規戦は見えない戦いであり別名、情報戦争とも呼ばれる。情報戦争で活躍するのは、情報の軍隊すなわち情報機関である。
 米国の対外情報機関の代表格である中央情報局CIAが、テロリスト撲滅のために開発投入したのが無人偵察機であった。鳶の様に長時間、高々度に滞空し地上の動きをつぶさに観察し、必要に応じてミサイル攻撃までする。
 無人機といってもパイロットは安全な地上から飛行機を操縦しており、地上の観察は光学レンズやレーダーだけでなく通信傍受、音声盗聴まで駆使した情報を、衛星でワシントンに送りコンピュータを用いて瞬時に分析し、敵の位置を特定する。
 気が付いて見れば、米国の地上軍や航空宇宙軍のお株をCIAが奪うほどの活躍で、テロとの戦いを制したのだった。

CIAはベトナム戦争後の1970年代に世論の批判を浴びて予算削減の憂き目に遭い、80年代レーガン政権で復活、90年代、冷戦終了で再び予算削減となったが今回、イラン・アフガニスタン戦争で見事に有用性を証明して見せた訳だ。
 翻ってロシアを見れば、KGB出身のプーチン首相が再び大統領の椅子に座ろうとしている。冷戦終了で一時は無用の長物と見られた情報機関が、IT社会の中で却って存在意義を一段と増して台頭してきたと言えるであろう。
 もとより情報能力が欠如していると指摘されてきた日本政府であるが、こうした時代の趨勢にまるで無関心と言う訳でもないらしい。今年2月にウィキリークスは、日本の内閣情報調査室が拡充されるとの見通しを伝えた米外交公電を公開した。内調がここ数年拡充されてきているのは事実だが、その動きが米国と連携していることを示唆している点でこの公電は興味深い。
 米軍が西アジアから東アジアに重点を移しつつあり、またロシア軍が極東進出の方向を明確に示した現在、日本政府が国際情勢に対応すべく情報機関の拡充に力を入れるのは当然であるが、民主党政権下で拡充が進んでいると言うのは如何なる背後事情があるのか?今後はそこを見極めていかなくてはなるまい。

*9月30日号で取り上げたテレビドラマ「秘密諜報員エリカ」はいよいよ明日23時58分から日本テレビ・読売テレビで始まる。小生が出演したPR番組は、日本テレビでは既に放映されたが、関西の読売テレビでは今夜24時59分からと明朝10時25分からの2回放映される。
 このドラマが内調の広報番組なのかどうかは定かではないが、国民が国家情報活動の重要性を認識する様なドラマに育つよう祈らないではいられない。