軍事ジャーナル(9月16日号)

 オバマ大統領の最大の失敗はアフガニスタン戦争である。もちろんアフガニスタン戦争はイラク戦争同様、ブッシュ前大統領が始めたものだ。イラク戦争にはオバマは反対を表明したがアフガニスタン戦争には賛成していた。ところが皮肉な事にイラク戦争は順調に推移し、米軍もめでたく撤収の運びとなったがアフガニスタンは安定しない状態でオバマ大統領は撤収を宣言した。これはアフガニスタンからの敗退を認めたに等しい。
 だが敗退だなどと言えば、米国民が収まらない。そこでアフガニスタン戦争の切っ掛けとなった9/11テロから丁度10年目となった今月、全米各地で敗退を勝利と呼び変える各種行事が繰り広げられた。慰霊を兼ねているから口さがない米マスコミも批判できない。犠牲者に黙祷を捧げ「あなたの仇は討ちました」と報告する。かくて敗退は勝利に塗り替えられた。
 その極め付けが昨日のホワイトハウスでの勲章授与式だ。メヤー軍曹は23歳、海兵隊所属だったが一昨年9月、アフガニスタンでの戦闘で戦友4人を失った。その彼に勲章を授与したのだが、当初彼は辞退したという。戦友を救う事の出来なかった自分に貰う資格はないと。
 だがオバマ大統領はこう語り掛けた。「君の悲しみは分かる。君は自分のせいで4人は死んだと思っているだろう。だがそれは違う。君のおかげで残りの36人は生還したのだ。そして死んだ4人の米兵も君の勇気ゆえに英霊として帰還したのだ。」
 さすが弁護士出身の大統領、傷付いている人々への慰めの言葉だけはよく知っている。だがこの言葉に一番慰められているのは他ならぬ大統領自身だろう。
 もちろん、ブッシュが安定化に道筋を付けたというイラクも今後どうなるかは分からない。アフガニスタンもブッシュが始めた戦争の付けをオバマは負わされたとも言える。

 だがブッシュ政権にはイランを攻撃するという最終選択肢がありえた。当時の副大統領のチェイニーらが主張したもので世論の批判を浴びて選択されなかったが、イランの核武装が眼前に迫った現在から見れば、あのとき攻撃していれば今の中東の混乱はなかったと言える。
 というのもイランの弾道ミサイルは欧州を既に射程に入れており核弾頭が装着されれば防衛は難しくなる。もはやイランの核武装は避けられないと見たオバマ政権は欧州防衛には消極的になり、リビアにも陸上兵力の派遣は見送った。おかげでリビアの混乱は長引きそうで、ユーロは値を下げ財政危機が顕在化した。
 内戦の危機はシリアに飛び火しエジプトでも再燃している。この儘、放置すればサウジアラビアの崩壊もありうる情勢だ。ブッシュ政権は少なくともイスラエルを軸とした中東和平の構想を示した。ところがオバマは肝心のイスラエルをも見放して中東外交の軸を失い、米軍を撤収させることばかり考えている。
 米国では早くも来年の大統領選の前哨戦が始まっている。各候補間の議論を聞いていると国内問題ばかりに終始している。しかしこれは、「外交や安全保障は選挙の争点にしない」という暗黙の前提があるためで(選挙公約で国家戦略を縛らないため)、米国民が内向きになっているわけでもなければ次期政権が外交にコミットしない予兆でもない。
 むしろ次期大統領選の真の争点は外交・安全保障であって、それ故にオバマの安全保障の見識が問われているのである。