鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2011年7月7日号)

 今、韓国では「日本が竹島奪還を計画している。明日にも自衛隊が竹島に侵攻するかもしれない。」などというデマが公然と囁かれている。親北派のデマだが、韓国ではこうした反日デマは反論もされず公然とまかり通ってしまう。そしてこのデマの背後に恐るべき陰謀が進行している。

 韓国保守派の危機感は昨今高まるばかりだ。保守派と目されていた李明博大統領の国防への無理解は天安撃沈や延坪島砲撃への対応で露呈したが、現在、策定中の国防制度改革案こそ最低・最悪の政策だという。
 307軍改革計画と名付けられた同案では指揮・管理一元化を骨子としている。ちょっと聞くと良さそうに聞こえるが、その実これほど危険な軍制はないという。それは旧共産圏を始めとする独裁国家が指揮・管理一元制を採り、米国を始めとする西側諸国・日本などが二元制を採用してきたという現実からも推察できよう。
 組織は通常、管理だけで成立する。役所や会社では管理職はあっても指揮官職はない。成員が日常業務を遂行できる環境を整えてやればいいからだ。だが軍隊のように緊急性の高い組織では非常時には最高指揮官の命令一下、即座に機動展開しなくてはならない。つまり日常機能する管理系統とは別に非常時に機能する指揮系統が存在する。
 二元制とはこの二つを明確に分離し、人事的にも指揮部門と管理部門を分けておくのである。こうすることにより軍の暴走や腐敗を防ぐ事が出来る。一元制では指揮官が管理職を兼務する。一見効率的だが暴走や腐敗への歯止めがない。
 韓国では天安事件や延坪島砲撃への対応が鈍かった。歴代政権の軍事への無理解による軍の規律の低下が最大の要因だが、李政権は汚名挽回とばかりに一見効率的な一元制に乗り換えようとしている。しかし極端から極端に走るぐらい危険な事はない。

 保守派が危惧する最悪のシナリオとはこうだ。軍が一元制になった後、来年の大統領選挙で保守派が敗北して親北派の大統領が選出される公算は極めて高い。親北派は北朝鮮の思惑通りに動く人達であり国会では既に多数派を形成している。更に親北派は反日意識が濃厚で昨今、竹島問題が極端にクローズアップされるのも彼らの策謀だと言われている。
 
 そこで親北派の大統領が「日本の自衛隊が竹島を奪還しようとしている。予防措置として対馬を占領せよ」と韓国軍に命じたらどうなるか?。二元制のもとでは、こうした極端な命令は実行できない。指揮と管理が事前に調整して戦略を策定しているためで、最高指揮官が突然思いつきのような命令を出しても事前に戦略として策定されていない命令は実行のしようがないのである。
 だが一元制では事情は異なる。どんな無謀な命令でも実行を阻止する事由はない。スターリンの無謀な指令がどれだけ世界を苦しめたかを思い起こせば明らかだろう。
 対馬が占領されれば日韓関係は断絶し、日本と韓国双方に米軍を駐留させている米国の東アジア戦略は破綻する。まさに北朝鮮のみならず中国、ロシアにとっても思う壺の事態が実現する事になる。
 日本と東アジアの安定の基盤は、想像以上に脆いのである。