鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2011年7月5日号)

 「ドイツで徴兵制が廃止された」と報道された。しかし記事を仔細に読むと、徴兵しなくなったのであって、徴兵制度そのものが消滅した訳ではない。つまり徴兵制廃止ではなく徴兵停止である。
 軍縮政策を採れば兵員数は削減となり、全国から人員を集めなくても兵員数を満たす事が出来る。もしまた大量の兵員が必要となれば再び徴兵するのであって徴兵制度そのものは存続している。
 日本でも戦前、戦中は徴兵制があったが、昭和初期の軍縮時代には徴兵猶予といって徴兵されない場合が多かった。
 日本のマスコミは、戦後何度も「徴兵制廃止」という見出しの国際記事を配信してきた。「1961年、英国、徴兵制廃止」「1973年、米国、徴兵制廃止」「1995年、フランス、徴兵制廃止」こう並べば、徴兵制は廃止されるのが世界の潮流だと誰でも思うだろう。だがどこの国も全国から若者を掻き集めなくなっただけだ。
 大体、徴兵制か志願兵制かという質問自体が意味をなさない。何故なら志願制度は徴兵制を前提として成り立っている。徴兵を停止しても、国防が国民の義務であることに変わりはない。従って徴兵停止期にあって、軍隊に入ろうとする若者はこの義務を果たすべく入隊を志している訳だから志願している訳だ。そこで志願した若者を国が徴兵するのである。従って志願兵制度はしばしば選択的徴兵制度と呼ばれる。

 日本は戦後、軍隊がないことが建て前となった。実際には自衛隊という軍隊があるのだが、軍が無いという建前だから徴兵制がある訳はない。だから自衛隊に入隊することを志願とは呼ばない。時々、軍事関係の書物に、日本は志願制などと記述されているのを見掛けるが、諸外国の通例から見て、そう解釈するしかないから、そう記述されるのであって、やはり日本は異例なのである。
 徴兵制がないのが建前の日本では、「徴兵制廃止」の報道は極自然な流れとして受け止められてしまうようだが、やはり、それでは国際情勢の認識を誤るであろう。
 最近、中国が徴兵を手控えているという話をよく聞くが、さすがに日本のマスコミも「中国、徴兵制廃止」とまでは伝えないようだ。国防法や国防動員法を見れば、徴兵制が廃止されたなどとは到底考えられないからだろう。
 実態をいえば中国陸軍の兵力を大幅に削減し海軍と空軍の兵力を増員しているのだ。海軍や空軍は高度な技術集団であり、兵員も一定の教育水準を要求される。選択的徴兵にならざる得ない筈である。
 では削減された陸軍の軍人はどうなっているかと言えば、工作員として再教育され世界中にばら撒かれているらしい。日本にも多数潜入していると考えられる。潜入と言っても潜水艦からウェットスーツで上陸するわけではない。スーツ姿で空港の税関を堂々とくぐり抜けてやって来ている。陸軍削減だからと言って決して油断は出来ないのである。