鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2011年7月15日号)

 菅総理が昨夜、民主党若手議員との会食で「東京、神奈川から3千万人が移住するような事態も想定して決断しないといけない。だから脱原発なんだ」と発言した。またしても例の思いつき発言かと辟易する人も多かろうが、これは単なる思い付きではない。通常こんな異常な発言がとっさに出る筈はない。彼は明らかにこうした事態を考えているのであり、この発言は確信犯のものである。
 さきに福島県の一部で計画避難が始まった時、私は「これはスターリンの強制移住政策に似ている」と感じたものだ。「もし菅総理がマルクスレーニン主義の革命家ならば、次には首都圏3千万人の強制移住を考えるだろう」とそのとき思った。都市から住民を強制移住させるのは革命の最も手っ取り早い方法なのである。現に1970年代後半、カンボジアのポルポト政権は首都プノンペンから住民を地方に強制移住させた。おかげで、かって栄華を極めた都市は廃墟となり、そして移住させられた地方で起きた事は100万人以上の大虐殺だった。これがマルクスレーニン主義者のいう革命である。
こんなやり方を今どき正しいと思う人はいない筈だが、頭の片隅に思想的片鱗が残っている人は実は結構多い。
 1960年代までマルクスやレーニンは共産圏のみならずこの日本においてさえ英雄・偉人として讃えられていた。これは当時の新聞や雑誌を見るとわかるがマスコミだけではない。学校の先生も授業で公然と讃えていたのだ。菅総理の世代はまさにそんな教育的な環境で育ったのだ。
 菅総理は財務相のとき、国会で乗数効果について尋ねられたが乗数効果という言葉そのものをご存知なかった。乗数効果はケインズ経済学の基本的概念だから、これを知らないということはケインズ経済学に無知・無関心であることになる。

 1930年代は世界的に大不況の時代だった。マルクス経済学者は資本主義は必ず滅び共産主義へ移行すると説いてソ連を讃えていた。その後ケインズら近代経済学者が不況の克服方法を明示したため、マルクス経済学は信用を失い、彼らの讃えていたソ連も崩壊した。
 つまりケインズを知らない菅総理の頭の中は依然として1930年代のマルクス経済学のままであることになる。震災後にあってさえ極端なデフレ政策や増税を画策するのも資本主義を崩壊させようとのマルクスレーニン主義からなら容易に説明が付く。
 菅総理のせいばかりではあるまいが、日本のみならず世界全体が1930年代に似た雰囲気になってきた。いうまでもなくその先に待ち構えていたのは世界大戦である。