鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2011年7月12日号)

先月25日、米中はアジア太平洋地域を巡る初の高官協議をハワイのホノルルで開いた。ところが驚くべき事に、この会議の空き時間に、米中両高官は真珠湾のアリゾナ記念館を訪問している。言うまでもなく、真珠湾は米海軍の軍港であり、日本海軍は1941年、ここを攻撃して大東亜戦争の火ぶたが切って落とされた。そのとき撃沈された戦艦アリゾナは復元され記念館となっているのだが、アジア太平洋を巡る協議の合間に米中高官がここを訪問するなどと言うのは物見遊山ですまされない重大な意味を含んでいる。
 1997年、当時の中国の国家主席、江沢民がここを訪れている。アリゾナ記念館は日米戦争のモニュメントであり、中国は何の関係もないのだが、敢えてそこを訪れたのは深い意味がある。江沢民の戦略はこうだ。「第2次世界大戦で米中は同盟国であり日本は共通の敵であった。その過去を思い出し、これからも米中で提携して日本を叩こう」
 実際には大戦中の中国軍は弱体で米国にとって足手まといでしかなかったし、日本と戦ったのは主に中国国民党であって、中国共産党ではなかった。
 だが1990年代に江沢民の採った反日親米戦略は大成功で、米国の支援を得た中国は今日の経済発展の基礎を築き、一方日本は米国からの圧力で不況をいよいよ悪化させた。
 江沢民は反日親米戦略の成功をアピールするために、真珠湾をわざわざ訪れたのだが、そこに米中高官が詣でたとなれば、これは米中で再び日本叩きに奔走することを意味する。
 米側の高官とはキャンベル国務次官補、90年代のクリントン反日政権でも安全保障を担当しており、しかも記念館訪問は米側から持ち掛けたという。

 同じクリントン政権で経済を担当したサマーズは現オバマ政権にも強い影響力を持つが、彼は東日本大震災直後に「日本は貧しい国なるでしょう」と発言した。被災国に対し失礼なばかりでなく経済学者としても妙な発言である。復興景気により経済成長を見込むのが経済学の常識であろう。
 クリントン反日政権の関係者が現政権にも多数関係している以上、彼らが90年代の反日親中政策の繰り返しを考えても不思議ではない。何しろ米国はあの過激な通商政策のおかげで一時的にせよ大儲けしたのだ。
 米中提携による日本叩きは歴史的に見て共通の特徴がある。日本はいつも中国から軍事的挑発を受け、米国から経済的打撃を受けるのである。これは戦前からニクソン・ショックを経て90年代に至るまでほぼ一貫している。今年は大東亜戦争開戦70年に当たる。歴史にかこつけた陰謀が進行しているのではないか。